#勇者のために
「ああっ………………‼︎‼︎」
先ほどまで、悲観していたクラウトの顔に希望が満ちる。
真っ黒だった目に明るい光を宿すと、アルスに向かってうなずくように微笑んだ。
「えっ?」
そこからストロガノフとザンギが、あっけとられるほど自然な仕草でふたりの間に立つと、聖堂にいるかのように厳かな祈りを捧げ始めた。
「私の命の灯よ。いまこそ強く大きく燃え上がるとき。この身と引き換えに魔を滅ぼしたまえ」
シュルシュルシュル‼︎
クラウトの胸から眩い光がロープのように吹き出し、ストロガノフとザンギを足元からぐるぐると巻きこむように包む。
「しまった‼︎ ザンギ、逃げろ‼︎‼︎」
自己犠牲の呪文に気が付いたストロガノフが、せめてザンギを逃がそうと突き飛ばした。
「もう遅いよ」
クラウトはすべてを達観した顔でストロガノフに告げる。
光のロープは弾かれたザンギを絡めとり、再びふたりの体を強く締め付けた。
「ぐおぉぉぉお‼︎‼︎」
ストロガノフとザンギは、光のロープを引きちぎろうと全身に力を込めるがびくともしない。
大絶叫のなか、クラウトは心ここにあらずで天を仰いだ。
「あ~あ…………。大神官になりたかったなぁ……」
ぽつり、ひとり言のように呟いたのを合図に、クラウトの体は炎に包まれた。
「テメェ……‼︎ 次は地獄でぶっ殺してやる‼︎‼︎」
炎はクラウトを中心に激しく燃え上がると、ストロガノフとザンギを飲み込んで、周囲を真っ白にするほどの光を放った。
眩い光が完全に消滅した後には、三人の力尽きた姿があった。
「ザンギ……、ストロガノフ……」
リコッタが呆然とした表情で立ち尽くしていた。




