あれ? やばくね?
「くらえぇぇええ‼︎‼︎」
我の全魔力を込めた暗黒の球体を、アルスに向かって振り下ろそうとした瞬間ーー。
アルスの背後から肌を切るような冷気が我に向かって吹き付ける。
冷気は一瞬で鋭い氷の刃へと形を変えると、我に向かって一斉に牙を向けてきた。
「トルテちゃん……」
氷の魔法を発動させた主を見つめる。
彼女の憎しみと悲しみが入り混じったような瞳を見た途端、心臓までもが凍り付いたように動けなくなった。
ドスッ、ドスッ。
同時に我の体に何本もの氷の刃が突き刺さる。
行き場をなくした暗黒の球体は、窓ガラスにぶつかり、ミシミシと音を立てると、大きな穴を開けて海で爆発を起こしていた。
「ちっ‼︎」
自らに放たれると思った氷の刃が、ゾーラに向かったことに気が付いたリコッタは、怒りと魔力をさらに込めた爆発を作り出し、トルテちゃんに向かって振り下ろした。
「ああぁあああ‼︎‼︎」
呪文を唱えたばかりの、ガラ空きの体に凄まじい爆発が巻き起こる。
衝撃により吹き飛ばされたトルテちゃんの小さな体は、床に大きく叩きつけられると、そのまま意識を失った。
凄まじい痛みを味わったはずなのに、その顔はなぜか微笑んでいるように見えた。
「ありがとう……、ありがとうトルテ……‼︎」
氷の刃によって切り裂かれた腹を押さえて、這いつくばる我の耳に聞きたくないセリフが入ってくる。
「ぐうう……」
呻きながらわずかに顔を上げると、その手に勇者の剣を握ったアルスの姿が瞳に映った。




