#これ勝てるんじゃね?
「はぁはぁはぁ」
息を整えながら辺りを見まわすと、ストロガノフとザンギが神官を追い込んでいた。
「真空の刃よ悪しきものを切り裂け!」
神官は真空の魔法でふたりを切り裂こうとするも、これをザンギが盾となり受け止める。
「おらあぁっ!」
その背後からストロガノフが飛び出し、神官の腹に強力な一撃をくらわせていた。
見事なコンビネーションだ。
クラウトが神聖魔法と攻撃呪文、さらに槍を使いこなす優れた神官だとしても2対1。
さらに相手は魔界最強コンビである。
どう考えても分が悪い。
床に叩きつけられた神官は、自ら神聖魔法で回復するも、その顔には焦りが浮かんでいた。
真っ白だった法衣は、砂埃、飛び散った血により薄汚れていた。
一方、リコッタはーー。
トルテちゃんの魔法で生み出された氷山を片っ端から爆発させると、いくつもの小さな時限爆弾をトルテちゃんの周りに配置した。
黒く禍々しい球体が、いまにも弾けそうな勢いでバチバチと音を立てる。
「えっ、あっ⁉︎」
トルテちゃんは即座に爆弾を氷漬けにするも、いくつか間に合わなかったものが小爆発を起こした。
小さな火球がところどころ衣装を破き、煤が美しい顔を汚した。
しかし、そんな状況にも関わらず、劣勢になっている神官の様子が気になっているようで、いまいち戦いに集中できていない。
「よそ見しているんじゃないわよ!」
リコッタがダガーを引き抜き、トルテちゃんの懐に入る。
「くうっっ!」
トルテちゃんは慌ててミニロッドでこれを受けとめた。
リコッタはさらに一歩踏み出し、全身をぶつけるようにしてトルテちゃんを壁に叩きつけると、間合いをとり、再び爆発の呪文を唱え始めた。
トルテちゃんは苦痛に顔をゆがめながらも、ミニロッドをわずかに振り、小さな声で詠唱を始めた。
「ハァハァ」
肩で息をつく。
足が重く、武器を持つ腕がしびれてきた。
だが、いま我らの優勢を肌で感じている。
アルスが我と同じ状態ならば、絶っ対に引かない。
「最後の力を叩き込んでやる!」
1年前、魔王史上最弱だった我が、ここまでアルスと対等に戦える日がくるとは思わなかった。
仲間たち、
じいさん、
先代のおかげで
奇跡の片鱗が見えてきたのだ。
左手を地に向ける。
「禍々しい暗黒の力よ、我に力を与えよ」
闇の力と我の中にある全魔力と混ぜ合わせて、巨大な暗黒の球体を作ると、アルスに振り下ろすべく、頭上に高く掲げた。
そのとき、我の背後で勇者の剣が煌々とした眩い光を解き放ち始めた。




