#ストロガノフ、#ザンギ
我の声を合図に、剣を振りかざしたアルスが、一直線に向かってくる。
「うぉぉぉおおお!」
我は王座から立ち上がり、魔笛兼鎌を構える。
不思議と怖くなかった。
ガキインッ!
次の瞬間、鎌と剣が火花を散らす音が閲覧の間に響く。
お互いの正面で鎌と剣をぶつけ合うと、全身の力を込めて弾いた。
鎌にくらべて小ぶりの剣を持つアルスが、素早く剣を構えて次の太刀を放つ。
(見える!)
胴体を真っ二つに切り裂くように、鎌を大きく横に振り、勇者の一撃を叩き流した。
睡眠時間を減らしてまで、何度も何度もストロガノフとザンギと打ち込んだことを体が覚えていた。
剣を握る力を抜き、鎌の衝撃を流すアルスの唇が、かすかに動いているのが見えた。
「闇の力よ!」
瞬時に左手を握り、闇の力を集中させると、アルスの左指から放たれた雷撃に向かって暗黒魔法を唱えた。
我の手の平から解き放たれた暗黒の渦は、棘のムチのような雷撃をグルグルと巻きこんでブラックホールのように飲み込んだ。
リコッタに教わった暗黒魔法はしっかり身についているようだ。
(大丈夫。戦える!)
体が動く、頭が反応する。
感覚的にそう確信した。
「さすがに……、一筋縄ではいかないか」
お互いに間合いをとって見合うと、アルスがポツリと呟いた。
その顔は少し笑っているように感じた。
仕切り直すように剣を構えるアルスの背後で、神官が純銀の槍を掲げて、神に祈り捧げ始める。
「森羅万象の神々よ。我らにお力を」
祈りに導かれるように、黄金色の小さな光が槍の先にくるくると集まってきた。
光は徐々に勢いを増し、台風のような巨大な渦になると、神官の合図とともに、うねりながら我らに向かってきた。
両腕を体の前に構えて防御の体制をとると、我の隣で、気合をためていたザンギから青い炎がゴオッと立ち上る。
「はああああ!」
気合いとともに、青い炎は熱波に変わり、神官の巨大な光の渦とぶつかり合う。
光と熱は、暴風をまき散らしながら、互角の力で押し合うと、ゆっくりと消滅した。
「テメェの相手は俺だ」
ザンギは手の平に拳を叩きつけると、神官に向かって宣言した。
「カラクリ屋敷から、テメェには腹が立っていたからな」
黙って下を向く神官に、ザンギが歩み寄った瞬間、神官は素早く腰を落とし、するどく槍を突いた。
ザンギは体を引いてかわしたが、わずかにかすめた剣先が、頬に薄紅の線を引いた。
「知ってた? 僕、神聖魔法だけでなく、武器を使っても強いんだよ」
神官は光のない真っ黒な瞳で、口角だけを上げてニヤリと笑った。
その表情は、ザンギにカラクリ屋敷での出来事を彷彿させるような、不気味な笑みだった。
「君だけじゃ役不足だ。オーガふたり、まとめてかかってきなよ」
「なめられたもんだな」
ザンギと同じように、ストロガノフも赤い炎を燻らせながら鬼の形相になる。
「魔界最高コンビを相手にしたこと、あの世で後悔しろよ」
ストロガノフとザンギは、ともに体の前で拳を構えると、怒りを体現するかのように、互いの体から赤と青の火柱を立ち上げた。
「ゾーラ。勇者はオメェにゆずってやんよ」
ストロガノフはそう呟くと、ザンギとともに神官に向かって走り出した。




