#譲らぬ主張
「来るぞ!」
ストロガノフが叫ぶと同時に、窓から突風が吹き込む。
バッサバッサと羽を広げたフェニックスの背から、武器を振りかぶったアルスと仲間たちが、王座の我に向かって飛び込んできた。
ガキィィン!
ストロガノフは素早く我の前に飛び出ると、一瞬で気を集中させて、鋼鉄のようになった左腕で勇者の太刀を受け止めた。
「随分と荒っぽい登場じゃねーか」
「仕方ないだろ。入口に鍵がかかっていたからな」
剣をはじかれた勇者は、間合いを取りながら、ストロガノフに向かって、少しいたずらっぽく答えた。
フェニックスは勇者一向が無事、着地したのを見守ると、奴らに向かってギャアギャアと喚き、砂埃をまき散らして去っていった。
「いつの間にフェニックスを手名付けたのだろうか……?」
展開に乗り遅れた我は、奴のインスタチェックをやめたことを後悔していた。
現実逃避している我をよそに、勇者はキッと鋭い眼差しで我を睨む。
「ゾーラ……。まさか貴様が悪の権化、魔王だったとはな。オーラ、カリスマ性ゼロ。その上、非情に弱そうだったから、モブだと思っていたよ」
「…………」
「純粋なトルテ、善良なテニース国王、大臣を騙し、カスト村やテニース国王を、混乱に陥れた卑怯で卑劣な所業。そして、身勝手な欲望により、多くの人間を絶望へと落とす行為、俺は絶っ対に許さない!」
圧巻のパフォーマンスにより、ついつい聞き入ってしまったが、よくよく考えれば随分な言われようである。
見てくれが悪い、得体が知れない。
ため息が出るほどくだらない理由で、魔物を迫害したのは人間ではないか。
魔物や魔族は、生きるため、これ以上迫害されないため、知識をつけて、暗黒パワーを集めているのである。
それが、なぜ身勝手なんだ?
迫害したくせに、さらに何もするなという、人間のほうこそ身勝手なのではないか。
トルテちゃんに関しては、魔王ってことを隠していたのは悪かった。
しかし、それは嫌われたくなかったからだ。
トルテちゃんや我の気持ちを確かめもせず、魔王と知った途端、手の平を返しで騙したなんてそれこそ卑劣ではないか。
勇者のすべてにおいて一方的な言いぐさに、ハラワタが煮えくり返ってきた。
「貴公の正義があるように、こちらも正義がある。それが貴様らを脅かすなど、知ったことか!」
閲覧の間に我の怒りがこだまする。
人生でここまでイラついたのは始めてだった。
アルスは、一瞬体をビクつかせたが、即座に心を取り戻し、真っ直ぐに剣を構えて我を見つめた。
「ならば、人間たちが希望に満ちた未来を得るため、勇者の剣を手にして貴様を封じてみせる!」
お互いに譲らぬ主張。
次元の違う者同士が交渉で歩み寄ることはできるはずもない。
「では、死ぬ気でかかってこい!」




