#サンキュー、#先代魔王
「ゾーラ、頑張るのも良いが、ちと休憩じゃ」
暗黒魔法の修行中、集中力が切れた我は、じいさんの指示に従って休憩をとっていた。
最近のじいさんは、少しでも時間ができると、分厚い書物片手に、難しそうな計算をしている。
「一体、何の計算しているの?」
まったく興味がないか聞いてみた。
「これか? いま、先代魔王が残した電波の研究を、ワシが引き継いでやっているのじゃ。難解だが楽しくってのう。成功すれば、魔界だけでなく人間界にも革命を起こすかもしれん!」
キラキラと目を輝かせながら答えた。
チラリとノートを見ると、我がまったく理解できない難解な数式がいくつも並んでいた。
「先代魔王は時代のせいか、まったく評価されてなかったが非常に優秀じゃ。そもそも、インターネットを発明したのも先代だからのう」
「え? そうなの?」
「お主は本当になにも知らんのじゃな」
じいさんは呆れ顔で我を見ながら続ける。
「先代のインターネットのおかげで魔界の末端まで教育が行き届くようになり、わずか数十年でここまで発展したんじゃ。今まで人間たちに迫害されていた魔族や魔物が、自らの知恵と意志で生きるようになれたのだから立派なもんじゃ。もっと評価されて良いと思うんじゃがのう…」
我より魔界に詳しい。さすが大賢者様。
「まぁ、複数のスマホを繋ぐには、人間の絶望から生まれる暗黒パワーが必要じゃからのう。それによって、迫害されていた魔物が、人間を攻撃しまくるようになったんじゃ。で、怒り狂った勇者に抹消されたというわけじゃ」
黙って暗黒パワーを提供してればいいものの、人間とはまったくもって生意気な存在である。
「亡くすには誠に惜しい人物じゃ。生きていたらともに研究をしたかったのう」
計算の手を止めたじいさんは、まるで先代に語りかけるように呟いた。
「そういえば、前にカラクリ屋敷で、勇者の剣がホイロ島にあるって言ってたよね?」
ホイロ島は人間界のはずれにある無人島。
島の中央には先代魔王が作った、魔界に暗黒パワーを飛ばす城がある。
ちなみにこの城は、先代魔王と勇者の決戦地になった場所でもある。
「文献によると、先代魔王が絶命間際、最後の力で、勇者の剣を封印したと記してある。封印の効力は……、もってあと1年じゃな」
「てことは、勇者たちがホイロ島に上陸するまでの1年、修行に励むことができるってことか」
「この時間は、先代魔王が命をかけてゾーラ、お主に与えたものじゃ。成長するも、無駄にするも、どう使うかはお主次第じゃ」
先代、決してこの時間、無駄にはしない。
目標が定まったいま、あとは死に物狂いで努力するだけだ。




