#修行三昧
生まれて初めて努力した。
学校ではストロガノフとザンギに戦い方、リコッタに魔法を教えてもらった。
睡眠以外はすべて修行と魔法の勉強。
今まで、何もしなかったんだ。
少しの時間だって惜しい。
食事中だって魔導書を読み、風呂の間もひたすら筋トレをする。
「だから、敵の動きをよく見ろよ! 相手が動く瞬間に筋肉が反応するだろ?」
「指先に魔力を集中するのよ! そこから膨張させるように意識を送り込むの!」
今日もストロガノフ、ザンギ、リコッタに叱咤される。
でも、楽しかった。
ほんの少しずつだけど、攻撃を見切れるようになり始めたし、魔力が高まっているのを感じた。
「調子にのってんじゃねぇ‼︎」
そう思った矢先にストロガノフのパンチを顔面にくらい、鼻っ柱をへし折られた。
目の前がチカチカして、鼻の奥がツンとする。
「あイタタタタタ」
仰向けに倒れた我は、曇天の空を仰いでぼやく。
「はぁ〜あ…………。元から強かったらなぁ〜」
「バーカ。最初からチートなんてラノベの主人公しかいねぇよ。知ってっか? ストロガノフなんて、昔はクッソ弱かったんだぜ。ガキの頃なんてガリガリのモヤシみたいだったし」
ザンギが笑いながら言った。
「バカ! 言うんじゃねーよ‼︎」
「えっ? 本当⁉︎」
驚いた我は、体を起こしてストロガノフを見る。
ストロガノフはバツが悪そうにそっぽを向いた。その顔は少し赤くなっていた気がした。
「誰にも負けたくねーからな。毎日、コツコツ修行して少しずつ強くなった。それしか方法はねーからな」
その言葉を聞いて、あの夜、逆ギレした自分を恥じた。
「あ、あの……。ストロガノフ……、ごめん」
「わかったら、さっさと起き上がれ。おしゃべりはここまでだ」
フンと鼻で笑い、手の平に拳を叩きつけると、再び修行が始まった。
「遅れてごめ〜ん。てか、ウチ超お腹空いた」
そう言いながらやってきたミルクはおやつと称して、おにぎりを飲むように食べていた。
夕方まで修行して魔界城に帰ると、一目散にじいさんの元へ向かう。
少しでも休んでいる暇はない。
我にムダな時間は一秒もないのだ。




