#美少女、#〜からの逃走
体が石化したように動かない。
一瞬がすごく長くて、目が吸い込まれるように、彼女に引き付けられる。
同時に胸の奥がカッと熱くなり、ギュッと締め付けられた。
「どうしました? 具合でも悪いのですか?」
彼女が大きな瞳で心配そうに我を見つめる。
頭が真っ白になった。
「あっ、あの旅のお方? 大丈夫ですか⋯⋯?」
彼女が我に向かって、一歩踏み出したのを見て我に返った。
「あっ‼︎ あ、あうあう。は、はい。だ、大丈夫です⋯⋯。フヒヒフヒヒ⋯⋯」
テンパりながら素早く立ち上がって、接着剤をポケットに押し込んだ。
自分でもわかる。
いまの我は、最高にキョドっている。
「で、では⋯⋯、ご、ごきげんよう」
「えっ? 本当に大丈夫ですか?」
いてもたってもいられなくなり、喉の奥から何とか言葉を絞り出す。
彼女の言葉を最後まで聞く前に早足で立ち去った。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああ!」
カスト村からストロガノフとザンギがいる河原に向かう途中、叫びながら全力で走った。
(扉を塞いでいるのがバレた? 笑っているのを聞かれた? 接着剤の音なのにへっ、屁をこいていたと思われた? 我、キモくなかった?)
一気に浮かんでは、頭の中をグルグルと駆け回る。
ノドが、顔が、首の後ろまでが熱かった。
夜には勇者討伐だというのに動悸が止まらない。
カスト付近の河原に戻ると、ストロガノフとザンギが昼寝していた。
少しホッとして、うつぶせになり、足を思い切りバタバタさせた。
「はあーーー!」
すべてを吐き出すように思い切り深呼吸する。
大丈夫だ、落ち着け。
彼女から見て、我は後ろ姿だったから、接着剤を流している手元は見られていないはずだ。
などと自己弁護して気持ちを持ち直した。
それにしても、あの胸のドキドキはなんだったのだろう。
ひょっとして、あの女は妖術使いだったのかもしれない。
「でも、可愛かった⋯⋯」