#第一歩
敵同士なのにトルテちゃんを好きになったこと。
みんなを巻き込んだこと。
ザンギやリコッタを命の危険にさらさせたこと。
ストロガノフにキレたこと。
何もかもどうでもよくなったこと……。
ダムが決壊するように、いままで心の底にためていた思いを一気に吐き出した。
支離滅裂なうえに、途中で泣き出したり、何度も言葉に詰まった。
それでもじいさんは、我の拙い話を最後までじっと聞いてくれた。
そして、我の目を見つめて問いた。
「ゾーラ、いまの自分は好きか?」
「…………」
うなずけるはずなどない。
「………。好きじゃない……」
「それはなぜかのう?」
「ずっと…、ずっと…、頑張らなかったから。全部人や周りのせいにして、言い訳ばかりして逃げていたから」
「そうか。では、どうしたら好きになれると思う?」
「わからない……」
じいさんの瞳が我を見つめる。
喉が熱い。胸がギュッと絞られるように痛い。
「でも…、本当は…、本当はもう逃げることをやめて、自分と、みんなとちゃんと向き合いたい! そして、努力して自信と勇気を持てるようになりたい‼︎ そうしたら、今よりもほんの少しだけど、自分のことが好きになれる気がする……」
「答えは、もうでとるじゃないか」
じいさんは、目を細めると、優しく微笑んだ。
「後悔を最小限にするには、今すぐ動くことじゃよ」
そう言うと、立ち上がって資料室の扉を開いた。
「さぁ、ゾーラ。言っておいで。自分のすべきこと、もうわかっているじゃろう」
じいさんの言葉に背中を押されて、扉の外へと踏み出した。
一歩踏み出すごとに、重くのしかかった気持ちが消えていく。
重苦しい灰色だった視界も次第に明るくなり、色付き始めた。
魔界高校へ行くと、ストロガノフ、ザンギが稽古を、リコッタが魔法の修行をしているのが見えた。
ミルクはコーラを飲みながら、おやつを食べている。
近くまで歩み寄ると、我に気がついたストロガノフとザンギが修行の手を止めた。
リコッタ、ミルクもふたりにつられて振り返る。
みんなの視線が我に集まり、緊張が走った。
「あっ、あの…………」
上手く言葉が出ず口ごもる。
胸は早鐘のように鳴り、手にはじっとりと汗が流れる。
でも、もう逃げない。
ちゃんと向き合うって決めたんだ。
足を踏ん張って、前を向く。
「みんな! 今までごめん! 我もみんなと一緒に強くなりたい! そして、もう一度、我と一緒に戦ってくれないか?」
「…………ふん。やっと来たか。おせーんだよ!」
ストロガノフとザンギは、いつもと変わらない態度で、何事もなかったかのように答えた。