#憂鬱な午後
『GAMA OVER』
我の人生を表すかのように、スマホ画面に憂鬱な文字が表れる。
凄まじい自己嫌悪に陥った我は、部屋から出ず、ひたすらゲームをしていた。
ふとした瞬間に、今までのことを思い出すから、あんなに楽しかったゲームが、全然集中できなくなっていた。
いままでの最高得点も、我の気持ちのように急降下する。
でも、膨大な時間や小遣いをつぎ込んだゲームもどうでもよくなっていた。
「水…、ないや」
喉の渇きを覚え、水を飲もうとしたが、部屋に常備していた飲食物が底をついていた。
死にたいほどの気持ちなのに、体は生きようとしている。
まったく、皮肉なものだ。
久しぶりに部屋から出ると、隣の部屋がガランとしていた。
回復したザンギが部屋を出たのだろう。
ザンギが出ていくまで、一度も顔を合わせなかった自分が嫌になった。
「はあー……」
ため息をつきながらキッチンへ向かう。
ガサッ。
途中、通りがかった資料室から人の気配がした。
資料室は魔界の歴史書や暗黒魔法の教本など、魔界指定文化財が収められている。
扉には魔法による厳重な鍵がかっているはずだ。
「泥棒?」
でも、まぁどうでもいいや。
むしろ、暴漢に殺られたほうがラクかもしれない。
投げやりな気持ちで扉を開く。
「ん? おお、ゾーラか‼︎」
そこには、本や資料を片っ端から読み漁っているじいさんがいた。テーブルには書物の山ができている。
「魔界はすごいのう! 新しい知識に魔法がいっぱいじゃ‼︎」
「なんだ。じいさんか」
ホッとしたような、残念なような気持ちになった。
「てか、ここ鍵がかかってなかった? どうやって入ったの?」
「古文書から解読して開けたんじゃ。難解で少々時間がかかったがのう」
じいさんは得意げに答えると、すぐさま視線を本に戻した。
あまりに熱中しているので、しばらく好きにさせておくことにする。
「じゃあ、出るときに鍵をかけといてね」
そう言って、部屋に戻ろうしたが、戻っても何もすることがない。
「ねぇ、人間界に戻らなくていいの?」
何の気なしに、じいさんの対面に座って話しかけた。
最近、人と関わっていなかったので、誰かと話したかったのかもしれない。
「ん? そうじゃのう、ワシは元々、独り身じゃ。戻らなくても何も問題ない。それに、何の因果か魔界に来れたんじゃ。ここには人間界にない知識が山ほどある。この莫大な資料を目の前にして、人間界に帰るなど、愚の骨頂じゃ! ゾーラには悪いが、ワシはまだまだ帰らんよ」
山積みになった本の隙間から顔をのぞかせて、目をキラキラと輝かせながら答えた。
その顔は不思議なことに、じいさんだが少年のようにも見えた。
「そっか。我はこの城で一人暮らしだから、じいさんが好きなだけいればいいよ」
ひとりでいると気が滅入るから、じいさんでもいた方が良い。
今日から正式に二人暮らしがスタートだ。
まぁ、押し掛けられるなら、じいさんよりヒロインの方がよかったけど。
「それにしても、楽しそうに本を読むね」
「新しい知識と出会う。こんな素晴らしいことはない。謎を解くたびに、古代呪文を甦らせる度に胸が高鳴る。ワシは過去のこと、未来のこと、人間のこと、魔界のこと、魔術のこと、この世のすべてを知りたいんじゃ。ああ、時間が足りない! 寝る間も惜しいのう」
せっせとページをめくるじいさんを見て、本当に学ぶことが好きなんだと思った。
「いいな……、好きなことをして、それが楽しくて、みんなに認められて……」
じいさんがページをめくる手を止めた。
「どうしたのかの?」
「もう、消えてしまいたい……」
本音がポロリと漏れた。
慌てて、笑顔で誤魔化そうとしてもうまく笑えなかった。
下を向いて泣き顔を隠した。




