#悪夢
いつも読んでくれる皆様
また再開しました。
エンディングまで頑張っていきますので、どうぞ宜しくお願い致します。
「ううっ、うっううう」
胸が押さえ付けられているように息苦しい。
ハァハァと自分の呼吸が聞こえる。
剣のぶつかり合う音、像や建物がガララと崩れる音、稲光が走る音が耳に張り付いて離れない。
まばゆい閃光がまぶたに焼き付く。血の味と髪が焦げる匂いがする。
熱い刃と稲妻が何度も肉を引裂き、全身が焼けつくように痛い。
『ゾーラさん、信じていたのに……』
優しかったトルテちゃんの瞳に強い憎悪が満ち溢れ、恨みのこもった眼差しで我を見つめる。
『嘘つき』
「うわああああああぁぁぁあああ‼︎‼︎‼︎‼︎」
自分の叫び声で目が覚めた。
激しい動悸で体がガタガタと震えている。
「あっ、あっ、えっ……?」
両目を動かし、辺りを確認すると世界一落ち着く我の部屋。いつも使っているベッドの上だった。
「全部……、夢……?」
だと思いたかった。
でも、体を動かそうとするたびに走る激痛に、まぎれもない現実を思い知らされた。
目だけを動かして下を向くと、体が包帯でグルグル巻きになっていた。
どうやら、我は魔王からマミーへとクラスダウンしたようだ。
「あれから……、どうなった?」
瀕死の重傷を負ったザンギや意識を失っていたリコッタの姿が浮かび上がる。
「探さなきゃ、助けなきゃ……! ぐっ……」
居ても立っても居られず、腕と腹に力を入れて体を起こそうとしたが体がいうことを聞かない。体を動かすたびに走る激痛にもがいていると、扉が開いてじいさんが入ってきた。
「おお! ようやく気が付いたようじゃの。この3日間、眠りっぱなしじゃったよ」
「ざっ、ザンギは!? リコッタは!? みんなは!? どうなった⁉︎」
じいさんの声にかぶせるように、矢継ぎ早に質問した。
「ザンギはまだ隣の部屋で眠っているよ。一時は危なかったが、なんとか持ちこたえたようじゃ。さすがオーガ、頑丈じゃのう」
ほっほっほとヒゲをなでながら答える。
あの後、じいさんが移動呪文を唱えて、魔界城まで全員を飛ばしてくれたという。
じいさん、野良パンサー扱いして悪かった。あんたは立派な大賢者様だよ。
「リコッタは魔界城に着いた直後に目を覚まして、それからつきっきりでザンギを看病しておる。ストロガノフやミルクも、お主やザンギを心配しておったよ」
「そっか……。ザンギが生きてて、リコッタが無傷でよかった……」
みんなの無事が確認できて、心の底から安堵した。
いままでの緊張と恐怖を吐き出すように大きく息をつく。
少しづつ震えが収まってきた。
「うっ、いてて……」
ザンギの元へ行こうと思ったが、体が言うことを聞かなかった。
「起き上がるのはまだ早い。もう少し回復したら、顔を見せに行くがよい」
そう言うと高度な回復魔法をかけてくれた。
命に関わるほどの大怪我は、何度か回復魔法をかけて、少しずつ回復するしか手がないらしい。
優しい光が体中の脈に絡みつくように染み渡る。
その温かさに自然と涙が頬を伝った。
「今日はもうお休み。あ、そうそう。カラクリ屋敷は、おまえさんたちが壊してしまったからのう。当分、ここの魔王城に住まわしてもらうよ」
じいさんの言葉を最後まで聞く前に、再び眠りに落ちた。
今日はもう、悪夢は見ないだろう。




