#彼氏
「ストロガノフ、マヂで早いんですけど~‼︎」
聞き覚えのありまくる声がホールに響く。
入口にはヒザに手を当て、肩でハァハァと息をついているミルクの姿があった。
体から真っ白い湯気を立ち上らせ、汗をポタポタ流している姿は、さながら茹であがったチャーシューのよう。
「あっつ~い! タピりたい‼︎」
大きなひとり言とともに、ポケットからおしぼりを取り出すと、顔をゴシゴシと拭いた。
「…………」
揉めていたはずの勇者と神官は、動きをとめて、突然現れたトロールをポカンと眺めている。
「ふしゅ~う。疲れた~。てか、ココどこ……」
汗を拭き終わったミルクの目に、隠し部屋に横たわるリコッタの姿が映る。
「‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎ リコッタあああぁぁああーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎」
大絶叫しながら、弾丸のように駆け寄ると、リコッタをひしっと抱きしめた。
「無事でよかったーー‼︎‼︎ ウチ、ウチ……、すっごく心配したんだよぉぉおーー‼︎」
うわああんとホールに響く声で、大泣きしながら、リコッタをさらにきつく抱きしめた。
リコッタがさらにぐったりして見えるのは気のせいだろうか。
ミルクは嗚咽が終わると、再びおしぼりを取り出してブビビーと鼻をかむと大きく息をついた。
冷静になり、視野が開けたミルクが周りを見回す。
「えっ!? えっ⁉︎ なにこの状況‼︎‼︎ ヤバーーい‼︎ ザンギ死にそうじゃん‼︎ ストロガノフ! ザンギがマヂでヤバいって!」
顔色を変えたミルクが、今度はザンギに駆け寄ろうとする。
「‼︎‼︎」
そのとき、丸焦げになって、横たわっている我に気付いた。
「ウチの……、彼氏……‼︎」
小さく呟くと、火山が噴火する直前のようにミルクの肩がワナワナと震えだした。
「誰じゃ〜、ウチの彼氏を殺ったんは誰じゃぁぁああああーーーーー‼‼︎‼︎」
屋敷が震えるほどの雄たけびを上げると、壁に陳列してある女神像を片手で引っこ抜き、巨大なこん棒のようにブンブンと振り回した。
勇者と神官は顔を真っ青にして後ずさっている。
トルテちゃんは気を失った。
我はいつ、ミルクの彼氏になったのだろう。




