#とても偉い、#じいさん
「まぁ、そんなにかまえなさんな」
じいさんがかしこまった神官に声をかける。
「最後に会ったのは神官学校の卒業式だったかの? あのときとは違って、いまはボロボロの成りだから、気付かんのも無理あるまい。あれから、勇者とともに旅立ったのか。立派になったもんじゃな」
じいさんは遠い目をして、懐かしみながら、長いあごひげを撫でた。
「はっ、はい。まだまだ未熟な身ですが……」
頭を垂れて返答する。
神官は姿勢をそのままに、恐縮した声で問い掛けた。
「あっ、あの、大賢者様……。恐れ多くもご質問させて頂きます。なぜ、オーガとともにいらっしゃるのですか? 奴に何をされたのですか?」
「ん? 何もされとらんよ。それどころか、こやつらには借りがあってのう」
ほっほっほ、と再び声を出して笑った。
予想外の回答に神官が顔を上げる。
勇者とトルテちゃんは、狼狽して互いに顔を見合わせている。
「なぁ、クラウトよ」
じいさんはゆっくりと神官に歩み寄ると、じっと目を見つめた。
「お主が国や勇者を思う気持ちは立派じゃ。しかし、今回はワシに免じて、隠し部屋にいるレディを開放してくれんかね。その代り、お主らが求める勇者の剣のあり方を教えよう」
「でっ、ですが……」
「えっ⁉︎ クラウト、どういうことだよ……」
黙って様子を伺っていた勇者が、怪訝な表情を浮かべて神官に問い掛ける。
しかし、神官はうつむいたまま、勇者の問いに答えなかった。
「頼む、この通りじゃ」
じいさんが頭を下げた。
全員の視線が神官に集中する。
「…………」
神官は懇願するような目でじいさんを見つめ、しばらく立ち尽くしていたが、次第に観念した表情になり、複雑な呪文を唱え始めた。
「扉よ、開け」
神官が杖でトンっと床を突く。
すると、ザンギが何度も拳を打ち込んだ、壁の模様がカチャカチャと動き出して隠し部屋が現れた。
カチャリ。
静まり返ったホールに開錠の音が響く。
勇者は扉を開けると、中で力なく倒れている女の姿を確認した。
「リコッタ……? リコッタじゃないか!? クラウト! なんなんだよ‼︎ 説明しろよ‼︎‼︎」
悲痛な声を上げて神官に詰め寄る。
神官はばつが悪そうに下を向いていた。
「ザンギ、リコッタ見つかったよ」
聞こえないだろうけど、ザンギに伝えた。
ドスン、ドスン、ドスン。
そのとき、地響きのような振動が屋敷に近づいてくるのを感じた。




