#なにも言えない
「ゾーラさん‼︎‼︎ 一体どうして!? クラウト、早く! 早く回復の祈りを唱えて‼︎」
トルテちゃんが取り乱し、我に駆け寄ろうとする。
「だめだっ‼︎‼︎ トルテ! そいつに近寄るなっ‼︎‼︎」
神官が鋭い声で制し、トルテちゃんの腕を掴んだ。
勇者は突然の出来事に困惑し、剣を下ろして立ち尽くしていた。
「アルス、トルテを頼む」
動揺しているトルテちゃんを勇者に託すと、痛みでジタバタともがいている我に近づき、ゴキブリを見るような目で我の顔を確認した。
「やっぱりそうだ。君、オーガたちがカスト村を襲撃したときも、テニース国が魔女に支配されたときもトルテの近くにいたよね」
「…………」
シンっと、静まり返ったホールに神官の冷たい声が響く。
一瞬、痛みを忘れた。
「ずっと怪しいと思っていたんだよ。君、魔族の手下だね」
「………………」
正しくは手下ではなく魔王である。
しかし、的を突いた答えに返す言葉がでてこない。
「これで、わかっただろう。トルテ、君は騙されていたんだよ」
「そんな……。ゾーラさん、信じていたのに……! 嘘でしょ?」
トルテちゃんが泣きそうな顔で我を見た。
その目を見ることができず、我は目を反らした。
「…………」
「ねぇ‼︎ 嘘だって言ってよおぉぉおーーー‼︎‼︎」
ボロボロと大粒の涙をこぼして絶叫した。
体の痛みなんか吹き飛んでしまうくらい、心が張り裂けるように痛かった。
「残念だけど、君たちの悪行もここまでだ」
そう言うと、神官は目で勇者を促した。
勇者は状況に戸惑い、躊躇している。
「アルス、わかってるよね? ここで倒しておかないと、奴らはまた同じことを繰り返すよ」
神官の声で勇者は覚悟を決めた。
「雷よ、悪しきものを貫け」
呪文を詠唱すると、バリバリと激しく音を立てる雷召喚し、我らに向かって振り下ろした。
「うわあああぁぁああああ‼︎‼︎」
頭のてっぺんから足の先まで、ビリビリと絡みつくような痛みと衝撃が襲う。
意識が飛びそうになると、新たな痛みが押し寄せるため、気を失うことすら許されない。
「ぎゃあああぁぁああ、ぐぐぐ‼︎‼︎」
我ができることは手をギュッと握り、体を固くして、この苦痛が終わるまで耐えるだけだ。
「ザンギはこんなのを何度もくらっていたのか……?」
屋敷に向かう途中、何度も雷鳴を聞いた。
その数、いやそれ以上、耐えていたのかと思うと涙がにじんできた。
「うっ、うっ……」
トルテちゃんはしゃがみ込み、体を震わせて泣きじゃくっている。
(もう、これで終わりだ。
ごめん、ザンギ。ごめん、リコッタ。
そして、トルテちゃん。本当にごめん。
だますつもりはなかったんだ。
でも、それも伝えることなく終わると思う)
涙が頬をスーッと流れた。




