#体が、#勝手に
「はぁ、はぁ」
その頃、我は――。
空間の割れ目を抜け、カラクリ屋敷まで森の中を一心不乱に走っていた。
肺がカッラカラで息をするのもつらい。
足がもつれているが、そんなことにはかまっていられない。
時折、辺りが暗くなり雷鳴が轟く。
そのすぐ後に、稲光が屋敷に向かって走るのが見えた。
我はザンギが雷の呪文を唱えられないことを知っている。
「どうか、ザンギが、リコッタが、無事でありますように」
魔王が神に祈るのもおかしな話だが、屋敷に着くまでひたすらお祈りしていた。
「こっ、これは……」
森を抜けた我の視界に飛び込んできたのは、半壊状態になったカラクリ屋敷だった。
屋根には穴が開き、黒い煙がくすぶっている。
ゴクリと息を飲み、震える手を必死で抑えながら扉を開く。
「…………‼︎‼︎」
そこには、両腕をダラリと垂らし、天を仰ぐように顔を上げたザンギが、体中から血を流しながら、かろうじて立っていた。
勇者が雷の呪文を唱える。
剣刃に稲光がまとわりつき、バチバチと音を立てた。
「オーガ、見事だったよ。だが、これで最後だ。次に人間に生まれ変わったら、また戦おう」
勇者は敬意を払うように、別れの挨拶を告げると、ザンギに向かって大きく振りかざした。
「やめろおおおおおぉぉおお‼︎‼︎‼︎」
考える間もなく体が反応する。
思いっきり足を踏み出して、ザンギの前に躍り出るとザンギの体を力いっぱい押した。
その瞬間、右肩から背中に向かって熱い熱い閃光が走る。
「うっっぎゃああぁぁああーーー‼︎‼︎‼︎」
我史上、最大の絶叫。
もう、痛いなんてもんじゃない。
多分、血もすごいでてる。
これはマジで死んじゃう可能性がある。
すさまじい激痛で立つこともできず、床にのたうち回った。
「あ? ゾ……、ゾーラ……?」
我に突き飛ばされ、意識を取り戻したザンギが、上ずった声を出した。
「いやああぁぁああーー‼︎ ゾーラさん‼‼‼」
同時にトルテちゃんの悲鳴のような叫びが屋敷に響いた。




