#じっと耐えている
「神のご加護を!」
宣言通り、神官が神に祈りを捧げる。
手から溢れた温かい光は丸い玉となり、横たわる勇者の胸元でポンと弾けた。
みるみるうちに勇者の頬に赤みが差し、指先とまぶたがピクリと動く。
「はっ……、クラウト! オーガは⁉」
意識を取り戻した勇者は、神官に気付くと跳ねるように飛び起きた。
神官はアルスに優しく微笑むと、さりげなく唇の血を拭う。
「ケガをしてるじゃないか。大丈夫か!?」
「うん。頑張って戦ったけど、ずいぶん攻撃を受けちゃった。でも、かなりオーガを弱らせることができたと思う。アルス、あとひと息だよ!」
「ありがとう……。ありがとう、クラウト‼︎ 必ず倒して見せるから!」
勇者は神官の手を力強く握ると、ぐったりと横たわる魔法使いを見つめた。
「トルテも回復してやってくれないか」
「もちろんだよ! オーガを倒したら大賢者様を探そう。そして、勇者の剣を見つけ、僕たちで世界を平和に導くんだ!」
「ああ!」
勇者は強く頷くと、瞳に希望を宿して、再び剣を構えてザンギに向かって駆けだした。
「ぐううううぅ……」
鋭い刃がザンギの体を何度も切り裂く。
勇者の唱えた雷の呪文が体を震わせる。
しかし、ザンギはヒザをつくも何度も立ち上がり、体の前で腕を交差させてひたすら身を守っていた。
「リコッタが無事なら、それでいい」
薄れゆく意識の中、ザンギは小さく呟いた。




