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#二重人格

「はっ…………?」


 ザンギの動きが止まり、手から神官の杖が離れた。

 聞き間違いとばかりに、目を見開いて神官を凝視する。

 神官は先ほどの純朴な態度とは打って変わって、狡猾な表情を浮かべる。


「これじゃあ、桜は見に行けないね」


 クックックと喉の奥で笑った。


「オイ、一体どういうことだ!? テメェらの仕業か!?」


 言葉の意味を理解したザンギは、神官の胸元を掴むと鬼の形相で詰め寄った。


「乱暴はやめてくれないか。それに、テメェらじゃなくて僕が勝手にやったことだよ。アルスやトルテは関係ない」


 神官はハエを払うように、ザンギの手を振り払うと、襟元を正しながら続けた。 


「屋敷の近くで野営しているときに、ひとりで水を汲みに行ったら、偶然君たちを見つけてね。事前に君らがいることがわかってラッキーだったよ。君たち強いからね」


ザンギがギュッと唇を噛み締める。こめかみに血管が浮かんでいた。


「この通り、正面から向かっても勝てないと思ったから、女がひとりになったところを見計らって、眠りの術をかけさせてもらった。保険のつもりだったけど、いまになって役に立ったね。まぁ、あの女はアルスに惚れているから、術なんてかけなくても、言いなりになっただろうけどね」


 神官は下品な笑いを隠すように、法衣の袖を口に当てた。


「アルスは世界が平和になればいいって考えだから、あとのことは何も考えていないけど、僕は魔王を倒したら、大神官になって国の政権を握るつもりだからね。こんなところで、全滅しているわけにはいかないんだよね」


 ザンギはぶつけようのない怒りを押し殺すように、拳をわなわなと震わせた。


「テメェの都合なんざ、どうでもいい! リコッタは無事か!?」


「ああ、安心して。眠っているだけで何にもしていないよ。魔族の女なんて興味ないし」


 ザンギはその言葉に、少しだけほっとした表情を見せた。


「でも、開放するかは、君の返答と態度次第だね」


 神官は冷酷な目でザンギを見据えると、高圧的な口調で続けた。


「じゃあ、最初は質問から。大賢者様はどこにいる?」


「知らねーよ……。こっちだって探してたんだよ!」


 ふうん、と鼻で息をつくとザンギをまじまじと見つめた。


「嘘をついてないみたいだね。まぁいいか、昔から放浪癖があったし、研究に没頭するとテコでも動かなくなる方だからね。後でアルスたちと探すとしよう,それじゃ、次はお願いだ。これから僕がアルスを回復するから、君は力を取り戻したアルスに、ジワジワとなぶり殺されてくれないか?」


「はぁ……!?」


 予想外の言葉に、ザンギが固まる。

 神官は光のない真っ黒い瞳でザンギを見ると、ゆっくりと口角を上げた。

 笑っているのに笑っていない。

 カラクリ人形のような表情だった。


「そんな、まどろっこしいことしないで、テメェがいま、俺を殺ればいいだろうが!」


 神官は両手を上げて首を振る。


「わかってないなぁ。この状況で僕が逆転するのは不自然だろう? それに、アルスには君を倒したっていう自信をつけさせてあげたいんだよね。3回攻撃受けたら、1回反撃する感じで自然に倒されてくれよ」

 

 神官は演技指導がツボに入ったのか、クスクスと笑いだした。


「それができないっていうなら、代わりに女が死ぬだけだ」


「くっそ‼︎ やればいいんだろ‼︎‼ その代わり、リコッタは開放すると約束しろ‼︎‼︎」


 ギュッと握ったザンギの拳から、ポタポタと血が滴る。


「君の命に免じて約束は守るよ。あ、そうそう。最後にもうひとつお願い。一回手加減して殴ってくれないか? アルスに頑張って戦ったアピールをするためにね」


「テメェ……、魔族よりも卑怯だな」



「なんとでも言え。これも、世界を平和に導くためだからな」


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