#行方不明
「ククク……、魔界最高得点を更新したぞ」
ついにカラクリを解くのを諦めた我は、屋敷の入口で、大賢者や勇者などの侵入者を見張りながら、スマホゲームに興じていた。
カタッ。
ちょうど連鎖がフィーバーしたときに、屋敷内で小さな物音がした気がした。
気付かないフリをしようとしたが、侵入者だとしたら困る。
「うわぁ、我ひとりなのに……」
不安を抱えつつ、魔笛兼鎌をお守りのようにギュッと握りながら入口の扉を開ける。
「だっ、誰かいますか~?」
小さく呟きながら、部屋全体をチェックする。
ひと通り確認したが変わった様子はなかった。
「気のせいか……」
ほっと胸を撫で下ろす。
再び屋敷の入口に立つとゲームを続行した。
しかし、朝からずっと気を張っていたため、いつの間にか寝落ちしてしまった。
「おい、起きろや」
朝方、体から熱気を立ち上らせたザンギが戻ってきた。
拳にはじんわりと血がにじんでいる。
大方、決戦前の高まる気持ちを、大木にでもぶつけていたのだろう。
大いに結構だが、本番前に使いものになっては元も子もない。
我は持ってきた救急セットで、甲斐甲斐しく手当をした。
テロリロリン。
すると、女子力がアップしたかのように、我のラインが鳴る。
画面を見るとミルクからだった。
『そこにリコッタいる?
昨日の夜、飲みに行く約束したのに、
連絡が途切れたんだけど』
ザンギに画面を見せる。
「あの後、すぐ別れたけど……。リコッタに何かあったのか⁉」
ザンギの声が張りつめる。
お互いに、リコッタに連絡するが応答はない。
「くっそ!」
ザンギは体を起こすと、リコッタが向かったであろう方向へ駆け出した。
我も後を追う。
「リコッタ! リコッタ!」
大声で名前を呼びながら、森の中を進む。
ザンギは草木をかき分け、獣道まで探していたが、手掛かりになるものは何も見つからなかった。
「ひょっとして、家に帰って寝ているんじゃないかな? それか、スマホを失くしたか」
我が思いつく限りの可能性を述べたとき、ザンギの動きがピタリと止まった。
「リコッタのスマホ……」
ザンギの視線を追うと、草陰にチャンネルのマークをパープルのラインストーンできらびやかに飾った、リコッタのスマホが落ちていた。
ザンギが画面をタップすると、ミルクとのラインに泣き顔のスタンプが押されたまま、未送信になっている。
いまだかつてないほど、イヤな予感がする。