#雨の日、#捨て犬、#ヤンキー
「離れろよ! あっちいけ!」
高校を出たところで、偶然ストロガノフを見つけた。
なぜか、足元にはボロ布をまとった生き物がまとわりついている。
捨てパンサーだろうか?
どっちにしても、見つかれば面倒なことになりそうな気がする。
「おおっ! ゾーラじゃん! いいところに来た!」
こっそり別の道を行こうとした瞬間、予感的中。
見つかってしまった。
「あっ、うん……。何しているの?」
「このジジィが、さっきから俺にしがみついて離れねーんだよ!」
ストロガノフの言葉に、ボロ布に目を向ける。
捨てパンサーだと思った生き物は、よく見るとボロボロになった薄茶色のローブを纏ったじいさんだった。
胸元まで伸びた髪とヒゲはボサボサで真っ白。
顔はドクロのようにげっそりとヤセこけて、目だけがランランと光っている。
「うわ! なに? 魔界魔導士かなにか?」
「俺にもわかんねーよ」
じいさんは、枯れ木のような腕で、ストロガノフの脚をガシッと掴むと、老人とは思えない大声で叫んだ。
「頼む! 何か、何か、食べ物をくれえええ! じゃないとワシ、死んじゃううう~~~‼」
必死の形相と哀れな姿は、赤鬼と呼ばれるストロガノフでさえ蹴るのを躊躇するほど。
「…………つーことで、このジジィ。魔界城に運んでいい?」
ストロガノフはじいさんを指差して、引きつった笑いを浮かべた。
雨の日に捨て犬、いや、捨てじいさんを拾うヤンキー……。
なぜだろう、ストロガノフがいい奴に見えてきた。
ズルズルズル! ガツガツガツ!
魔界城の会議室に、じいさんがカップラーメンやパン、菓子を貪る音が響く。
我の買いだめしておいた夜食をすべて食い尽くす勢いだ。
食いっぷりに圧倒された我とストロガノフは、ただポカンと眺めていた。
「ふううぅ〜、満腹じゃい。生き返った。お前さんたち、ありがとよ」
じいさんが満足気にパンパンに膨れた腹を叩く。
心なしか顔色も良くなったみたいだ。
「ワシの若い頃は、こんな美味い食い物はなかった」
「それはよかった。では、御達者で……」
じいさんの昔話など、聞いている暇はない。
時間がない我は、さっさと打ち切り、ストロガノフとじいさんを再び野に放そうとした。
「腹がいっぱいになったら、なんだか眠くなったのぅ……」
じいさんは呟くと、そのまま机に伏せて眠ってしまった。我が焦って時計をチラリと見る。
「俺がこのジジィ見てるから、オメェはザンギのとこへ行ってこい」
めずらしくストロガノフが申し出た。
お言葉に甘えて、そうさせてもらうことにした。




