#恋のトライアングル
「カラクリ屋敷の扉を開けて欲しいのだが……」
「はぁ? なんで?」
魔界高校の教室で、スラリと伸びた長い脚を組み、スマホをいじっているリコッタにハッキリと断られた。
テニース国で頼りっぱなしだったので、これ以上、借りを作りたくないのだが、我の知り合いで、頭の良い奴はリコッタしかいないのだ。
しかし、何度お願いしてもヤダの一点張り。
仕方ない。
「勇者も……、来るかもしれぬぞ」
奥の手を出す。
リコッタの顔がパアッと明るくなった。
「マジで!? アルスが? ちょっと早く言ってよ! 行く行く! どうしようメイク変えたほうがいいかな? 服はなに着てこう!」
先ほどの態度とは打って変わり、あからさまに浮足立っている。
「てか、なんでアルスくるの? それに、アンタたちカラクリ屋敷でなにするの?」
「えっ!? ええと……、我らは補習の課題。勇者は彫刻や建造物に興味があるみたいよ……」
苦し紛れの言い訳。
「ふうん……。まぁ、アルスに会えるなら、アンタたちのことはどうでもいいや。それにしても、アルスにそんな趣味があるなんて意外〜。でも、すっごくステキ!」
勇者の件は思い付きだが信じたようだ。
少しホッとしたが、気を緩めている場合じゃない。
勇者、ザンギ、リコッタが鉢合わせしたら絶対に揉める。
なので、リコッタにはカラクリを解いてもらったら早々にお帰り願おう。
そして、ザンギには本日中に大賢者をぶっとばしてもらい、翌日になったら勇者と一騎打ちしていただくのだ。
そう考えると時間がない。
「じゃあ、ヘアセット行ってくるね〜」
リコッタに急いでもらいたかったのだが、引き止める前に消えた。
仕方がないので、ひと足先にカラクリ屋敷へ戻ることにする。
外に出ると針のように細い雨が降り始めていた。
我の行き先を表すように。




