#キャットファイト
「アルス! 気をつけて! テニース国がおかしくなった原因はその女の人なの! その人が国王を惑わして、この国を操っているのよ!」
リコッタを目にしたトルテちゃんは、青ざめて震える体を両手で抑えながら必死で叫んだ。
「えっ?」
勇者は振り返ると、戸惑った表情でリコッタを見つめる。
「はぁ? 言いがかりはやめてくれない? なにを根拠にそんなこと言っているのよ!」
リコッタは腕を組み、アゴを上げて好戦的な態度をとった。
「地下牢に幽閉されている大臣からすべて聞きました。勇者の盾を隠したのもアナタですよね?」
トルテちゃんは泣きそうな表情で必死にリコッタに食らいつく。
女同士の戦いは男よりも見ていられない。
我の体は冷えと恐怖でガクガク震えていた。
「トルテ、もういいよ。よく頑張ってくれたね。あとは僕にまかせて」
神官はトルテちゃんの肩に手を置き、優しく諭すと、再び胸の前で純銀の槍を持ち、神に祈りを捧げた。
先ほどの回復魔法とは異なり、祈りに詠唱が混じっている。
神官が槍を掲げると、光の輪が庭園を囲むように広がった。
「魔法を無効化せよ!」
神官が宣言すると、輪からまばゆい光が立ち上がる。
光はブラッディの連中に絡みつくと、変身呪文を洗い流して元の姿へと戻した。
同時に国王や城の男たちが正気に戻る。
「あ、あれ?」
「これは……一体?」
ふぬけ顔から一転、体中に生気が満ち溢れた国王が、いち早く周囲にはびこる魔族に気付く。
「皆の者! 正気に戻ったか⁉︎ 魔物だ! 武器をとれ‼︎ 戦うのだ‼︎」
「おおー‼︎」
国王の覇気のある声に、兵の士気が上がる。
兵たちは腰に忍ばせたダガーや、丸腰の者は武器になりそうな物を振り回してブラッディの連中に立ち向かっていく。
水浸しの庭園はイッキに戦場と化した。
「マジでうざい!」
リコッタは顔をしかめて呟くと、指で素早く複雑な印を作り、呪文を詠唱し始めた。
長い髪が逆立ち、小さなエネルギーの粒が右腕にブレスレットのように絡みつく。
「みんな、消し飛べばいいわ!」
指先までエネルギーの粒を纏うと、リコッタは我を含む勇者一向に向かって腕を振り上げた。
同時に、噴水から再び水柱が立ち昇る。
カラン。
何かが落ちた音がした。




