#喧嘩番長、#山奥村カストへ
「では、我についてきてくれたまえ」
魔界から人間界へ向かうには、時空の割れ目を抜けなければいけない。
この割れ目は、魔界高校から徒歩30分の“不快の森”の中にある。
勇者のいる山奥村は、そこから半日歩いた所にあるようだ。
やや遠いが、いま出発すれば夜には到着するので夜襲をかけられるだろう。
「つーか、腹へらね?」
「ああ、なんかガッツリしたもん食いたいよな」
一刻も早く、勇者成敗へ向かいたかったのだが、高校を出た瞬間、ストロガノフとザンギが「腹減った」を連発。
不快の森へ行く前にファミレスでメシをおごらされた。
確かに”腹が減っては戦はできぬ”。
必要経費だ。致し方ない。
メシを食い終わり、ようやく出発と思いきや、店を出た瞬間、ストロガノフとザンギが他校の魔族に囲まれてケンカを始めた。
「ストロガノフ、ザンギ、死ねやコラああああああ!」
怒涛が飛び交い、空気がピンッと張りつめる。
ふたりの加勢をしたかったが、我は勇者討伐を控えている身。
巻きこまれては危険だ。
ここは看板の影に隠れるとしよう。
ていうか早く出発したい。
「おお⋯⋯!」
しかし。ヤンキーたちの戦いは見事なものだった。
ストロガノフとザンギは、デカい図体からは想像できないような素早い動きで、敵の攻撃をかわし、衝撃力のある重い拳や蹴りを叩き込む。
10人ほどいた他校のヤンキーをあっという間に撃沈した。
「準備運動にもならねーな」
キメセリフも格好良い。
魔界高校最強の名はあながち間違いではなさそうだ。
時間をくったが、奴らの戦い方を見ることができたのでよしとしよう。
勇者討伐もこの調子で頑張りたまえ。
「じゃあ、行こうか」
ケンカの決着がつき、今度こそ、本当に本当に出発と思いきや、その後、ヤツらはカジノに立ち寄り、3時間経っても出てこなかった。
ようやく出てきたと思ったら、ストロガノフは大負けしたらしく、我のケツに腹いせのローキックを放った。
「あ〜あ、ツイてねーな!」
それはこっちのセリフだ。
まだ、不快の森にすら着いていない。