#蝙蝠、#ラッキースケベ
「一刻も早く、アルスとクラウトに、この事態を伝えなくちゃ……!」
やや青ざめた顔で、トルテちゃんは呟いた。
その横にいる我の顔はさらに真っ青。
はたから見たら、見事なグラデーションになっているだろう。
「その前に、他にも閉じ込められている人がいないか、確認してから戻りましょう!」
「いやっ、もうこれでいいんじゃない? 早急に戻ろう……」
我の制止など耳に入らないトルテちゃんは、片っ端から覗き穴に目を合わせた。
予想通り、一番奥の牢をのぞいた瞬間、彼女の動きが止まる。
「ゾーラさん、来てください! これ、ひょっとして……」
御名答。
我が置いた勇者の盾だ。
そんなこと知らないトルテちゃんは、必死の表情で扉を押し引きする。
もちろん、扉はビクともしない。
「氷よ! 刃となって標的を引き裂け!」
強硬手段にでたのか、ロッドで複雑な印を組むと、先端から鋭い氷の刃を生み出して、扉に向かって放った。
扉はギラリと邪悪な光を放つと、氷の刃を飲み込むように吸収する。
「やっぱりだめだ、魔法で鍵がかかっていますね」
肩を落としてため息をつく。
マジで暗黒魔法で鍵をかけておいてよかった。
過去の我、久々の快挙である。
「仕方ないですね。一旦、戻りましょう。ここに盾があるとわかっただけでも収穫です」
名残惜しそうに扉を見ると、船着き場へ向かって足を踏み出した。
ごめん、トルテちゃん。
いまは盾を渡すことはできないのだ。
勇者を討伐したら、可愛くラッピングしてプレゼントするからね。
キキッ!
彼女の背中に誓った瞬間、蝙蝠の鳴き声が響く。
「キャあああっ‼︎」
突如、旋回してきた蝙蝠に、驚いたトルテちゃんが我に抱き付く。
「うわあっ‼︎」
突然のしかかってきたトルテちゃんの体を支えきれなかった我は、足を滑らせて後ろに倒れてしまった。
背中を思い切り打ち付けたため、一瞬息が止まった。目の前がチカチカする。
「ううう……」
気がつくと、我の上に四つん這いになったトルテちゃんがいた。
目の前で柔らかそうなおっぱいが、ふわふわっと揺れる。
お互い状況を理解できず、しばし見つめ合う。
キッ!
蝙蝠の鳴き声を合図に時が動き出した。
「えっと、あっ⁉︎ とっ、ト、ル、テちゃん……」
「あっ、やっ、やだぁ! ごめんなさいっ!」
頬と耳を赤く染めて、トルテちゃんがパッと離れる。
その瞬間、奥の牢の扉がパァッっと光り、カチッという音がした。
天国から地獄へ突き落とされた気がした。




