#フーとスー
「なんか……、面白いね。コレ」
「ふふふ。不思議な感覚ですよね」
ぷかぷかと気分は水面を漂う木の葉。
体からほぼ重力がなくなった我とトルテちゃんは、ラッコのように水面に浮かんでいる。
水=沈む。というイメージがあったので、なんとも不思議な気分だ。
ふと、手に持った魔笛を吹いてみる。
フーッと吹くと、体がスーッと水面を進んだ。
「フハハハ」
非常に面白い。
「すごい! ゾーラさん、私も一緒に!」
トルテちゃんがじたばたと水面を移動し、目を輝かせながら我の腕につかまる。
その姿が非常に可愛かったので、再び調子に乗って笛をフーッと吹く。一緒に水面をスーッと進んだ。
「あはは、面白い! ゾーラさん、もう一回!」
フーッとスーッ。これを5セット行ったところ、あっという間に対岸に到着した。
「しまった……」
調子に乗って墓穴を掘ったことに気付き、激しく後悔する。
対岸につくとトルテちゃんは重力解除の呪文を唱えた。
途端にズシリと重力が戻る。
水を含んだ服がいつもより重く感じた。
トルテちゃんはミニドレスの裾を持つと、水を絞りながら周囲を見回した。
持ちあがったスカートから覗く、白い太ももが非常にまぶしい。
いやらしい目で見ていると思われたくないので、慌てて目を反らした。
「いやに静かですね。囚人がひとりもいないのかな」
「てことは、何もないよ。も、もう戻ろうよ……」
必死で戻ることを提案してみた。
が、トルテちゃんに我の言葉は届かない。
「ゾーラさん、不安だったらここにいてください。私、ちょっと奥を見てみます」
ついには我を放置して奥の牢へと進もうとする。
「誰か!? 誰かいるのか⁉」
ドンドンドンと、手前の牢から扉を激しく叩く音と、切羽詰まった男の声が聞こえた。
再び、非常事態発生である。




