#怪しむ、#トルテちゃん
「ここは……、地下牢?」
貯水池の対岸を見つめて、トルテちゃんが呟いた。
「あちら側には行けるのでしょうか?」
「さあ、どうだろうね……」
神妙な面持ちで呟きながら船着き場に駆け寄ると、ミルクが破壊した筏をじっと見つめた。
「筏が破壊されている……。まるで誰かが意図的に壊したみたい」
「ま、まさか。新しい物と交換するために城の兵が壊したんじゃない?」
苦し紛れに誤魔化した。
背中にツーっと汗が流れる。
「だとしてもここまで壊す必要はありますか? この筏、ものすごい衝撃で粉砕されていますよ。人間の仕業とは思えないくらい……」
名推理である。
だってトロールの力で壊されたものだから。
ていうか、これ以上、追及されては危険だ。そろそろ戻る方向へと誘導しよう。
「そっ、そうかな? でも、もし、そうならとっても危険だよね。ここにいたら危ないよ。筏も壊れているから先に進めないし……。どうすることもできないから、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
トルテちゃんの願いを叶えてあげられないのは心苦しいが、今回ばかりは致し方ない。
来た方向をチラチラ見て、帰りたい素振りをした。
しかし、トルテちゃんは、じっと考えたまま動かない。
我の渾身の演技もスルーである。
「思った通りおかしいです。ここには何かが隠されている気がします」
トルテちゃんは意を決したように、我を見て言った。
「ゾーラさん、対岸へ行ってみましょう!」
「えっ!? どっ、どうやって?」
「泳ぐんですっ!」
「はぁ!? ちょっ、貯水池は深いし距離があるから無理だよ。それに我は泳げない……」
格好悪いから泳げないことを教えたくなかったが事態は緊急だ。
一応、聞こえるか、聞こえないかの小さい声でゴニョゴニョと言っておいた。
「大丈夫です! 私に任せてください」
そう言うと、トルテちゃんはミニロッドで複雑な紋章を作ると呪文を唱え始めた。
金色の髪がゆっくりとなびいて我の体をピンク色の光が包む。
呪文を唱え終わると同時に、重さが頭からスッと抜けて体が羽のように軽くなる。
この呪文、覚えがある。
「重力の魔法を使えるなんてすごいね……」
「ええ? このくらいの中学生レベルの魔法、誰だって唱えられますよ」




