#君を守る、騎士
「はぁ~、ビックリしましたね」
トルテちゃんは、先ほどとは打って変わり少女のような顔で安堵の吐息をもらした。彼女につられて深く息をつき、緊張した気持ちを吐き出す。
「咄嗟だったので、乱暴なことしちゃってごめなさい」
両手を合わせて可愛く謝ってきた。
まったくもって構わない。
むしろありがとう、という気持ちだ。
小悪魔っぽいギャップも見れて我は大変満足している。
「では、見張りに見つからないうちに先に進みましょう」
「あっ、う、うん……」
トルテちゃんに促されて、水路奥へと歩み始める。
もう後には引けなくなった。
が、冷静に考えれば地下牢へ渡るための筏はミルクが破壊した。
万が一、たどり着けたとしても、勇者の盾が置いてある牢獄の扉には魔法で鍵がかけてある。
トルテちゃんも溜池でもチラ見すれば気が済むだろう。
何も臆すことはないのだ。
「大丈夫、大丈夫だ」
自分自身に言い聞かせるように小さく呟いた。
すると、少しだけど気持ちがラクになった。
昨日と同じく、備蓄倉庫や武器庫を通り過ぎると、ライトの間隔が広くなり、次第に暗くなっていく。
時たま蝙蝠が旋回してライトの光を遮った。
「暗くて怖いですね。ゾーラさんは大丈夫ですか?」
トルテちゃんは壁に手を付き、頼りなさげに歩いている。
「よっ、夜目が効くから……」
腐っても我は魔王。
暗黒の住人だ。この程度の暗闇なんぞ明るい方である。
「心強いです。私、転んじゃいそうなので、先を歩いてもらってもいいですか」
「じゃ、じゃあ、我についてきて」
「はいっ……、きゃあ!」
先ほど旋回した蝙蝠が、再び我らの間を飛び回った。
びっくりしたトルテちゃんは壁にへばりついて、ちょっぴり泣きそうな顔で我を見た。
「ゾーラさん……、手を、繋いでいいですか?」
「えっ? えっ⁉︎ あっ! うっ、うん」
頭の中に鐘の音が鳴り響いた。
ランプに照らされた我の影は、まさに姫様を守るナイト。
(姫、お手をどうぞ)
なんてね! くうぅ〜! 素敵すぎる!
小さくて手と華奢な指から温もりが伝わる。
胸の底から心が熱くなった。
先日、おっさんを担ぎながらミルクと来たときは、まったく楽しくなかったのに、いまは楽しくて仕方ない。
トルテちゃんがいれば、どんな場所でも楽園になるのだ。
地下水路の奥にある仄暗い溜池さえ、我には輝く泉に見える。




