#入っちゃった
「こっ、こっ、ここに入るの?」
緊急事態発生。
トルテちゃんのお願いでも、ここは何としてでも阻止しなけばなるまい。
「なっ⋯⋯、なんか暗くて危険そうだよ。きっ、汚そうだし。トルテちゃんの洋服も汚れちゃうんじゃない⁉︎ え〜と、そっ、そう⋯⋯、城! もう一度、城の中を探ってみようよ!」
思いつく限りの言葉を並べる。
「もう何度も検索しました。でも、何も見つかりませんでした。あとは、この地下以外考えられないんです。勇者の盾が見つかるのなら、服なんていくら汚れてもかまわない。それに、ひとりだと不安だけど、ゾーラさんと一緒なら怖くない」
くうぅ~‼ いまのセリフ、録音しておけばよかったあああ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
いや、そんなことは言っている場合ではない。
あああ~、どうやって誤魔化せばいいのだろう。
体中から滝のような汗が流れる。
トルテちゃんに怪しまれないように平静を装っているが、心の中は非常にテンパっている。
「オイ! 誰かいるのか?」
突然、響き渡る野太い声。
定まらないライトの光が、我らを探しだすように踊っている。
目を凝らすとリコッタのグッドルッキンガイが見えた。
トルテちゃんは弾かれたように我の腕を引っ張ると、素早く地下扉を開けて、ふたりの体を押し込んだ。
内扉に体を押し付けると、白く細い指で我の口をふさぐ。
「シッ!」
数十秒後、ゆっくりと扉が開き、ライトの光が侵入者を探す。
我とトルテちゃんは扉の影で息を殺し潜んでいた。
扉一枚挟んで見張りがいる。
ドックン、ドックン。
周囲に聞こえるのではないかと思うくらい、胸の鼓動が大きく鳴り響いた。
頬を流れる汗が、いつもよりゆっくりと感じる。
「誰もいないな。気のせいか……」
扉が閉じられてライトの光とともに足音が遠ざかっていく。
再び、地下通路に静寂が戻った。
ふと気が付くと我とトルテちゃんは、抱き合うように寄り添っていた。
お互いの息づかいまで聞こえる密着度。
黒服の布越しに、柔らかい感触が伝わってくる。
先ほどまでの動揺が、今度は違う動揺へと変わった。
我の鼓動を知ってから知らずか、トルテちゃんは体をくっつけたまま、我の口からゆっくりと手を離す。
「入っちゃいましたね。これでもう逃げられない」
上目使いでいたずらっぽく笑った。




