#リア充、#デビュー
勇者はリコッタとしけこんだ。
神官はキャバ嬢に持ち上げられて饒舌におしゃべりをしている。
相づち打っていたトルテちゃんは、空になったグラスをテーブルに置くと、飲み物を取りに行く素振りをして歓談の輪を抜けた。
我との待ち合わせ場所へ向かうのだろう。
本当はいますぐにでも、トルテちゃんを追いかけたいが、ガッツいていると思われるのは格好悪い。
一旦、国王の部屋に立ち寄って髪型とコーディネートをチェックする。
少しおしゃれしたい気分だったので、黒服に魔笛兼鎌を取り入れてアクセントをプラスした。
「よし、行くか……!」
スマホを何度も見て、待ち合わせ時間を確認してから城門へと向かう。
「ゾーラさん、来てくれてありがとう」
月の光に照らされて、幻想的に発光する金髪と白いミニドレス。天使降臨とはこのことか。
「き、今日はこれで上がりだから……」
「なら、よかった」
あまりのまばゆさに直視することができず、目線を外して答えた。
そんな我の気持ちも知らず、トルテちゃんは続ける。
「さっそくですが、ゾーラさんと庭園で話した後、ひとりで城全体を調べてみたんです。そしたら、気になる場所を見つけて……。これから、探索したいのですが、一緒についてきてもらえますか?」
「あっ、うん。大丈夫」
そっけなく答えてしまったが、もちろんオッケーである。
いや、最初からそのつもりだ。
我は君が望むことならなんでも叶えてあげる。
今日から君専属の魔法使いになろう。
※ドリーミングユアセルフ。※サビ繰り返し。
いまの気持ちでJ―POPが一曲作れそうだ。
「ゾーラさんにお願いしてよかった」
トルテちゃんは胸をなでおろすと、キュートにはにかんだ。
好きなコに頼られるというのは悪くないものだな。
「では、気付かれないうちに行きましょう」
トルテちゃんを先頭に、城門の横にある階段を音を殺しながら降りる。
遠くでガーデンパーティの光と賑やかな声が聞こえた。
修学旅行の夜、好きなコと逢引しているようで気持ちが高まった。
我がオタ友とゲーム攻略談義をしている間に、リア充はこんな素晴らしい経験をしていたのか。
いままではうらやんでいたが、これで我も仲間入りだ。リア充の諸君、これからはどうぞよろしく頼む。
(ああ、このまま、時間が止まってしまえばいいのに)
ロマンティックを噛みしめながら、階段を降りると、トルテちゃんの歩みが止まった。
ぶつかりそうになり、あわてて体勢を立て直す。
「ゾーラさん、ここです! ここが怪しいと思うんです」
彼女が指差す先には、我が勇者の盾を隠した地下への入口があった。




