#へべれけ、#パフパフ、
「なっ、なに? この地獄絵図は……?」
デーモンに担がれて勇者たちの席へ戻ると、目の前には予想だにしない光景が広がっていた。
「うーん、うーん」
「神よ! 我らを救いたまえ!」
勇者は酒瓶を抱えたまま床に寝転んで、うなされていた。神官は真っ赤な顔と焦点の定まらない目で、延々と祈りを唱えている。
「あんな若造のどこがいいんじゃあああ‼︎‼︎」
「うるさい、触るな!」
国王は泣きながらリコッタに抱き付くが、足蹴にされていた。
そして、席の中央にはなぜかミルク。
「ブッハーー!」
抱えた酒樽を大口に流し込み、文字通りあびるように酒を飲んでいた。
周囲には酒瓶や樽が散乱し、近寄るだけで酔いそうなほど、酒の匂いが充満している。
「え? え? ちょっと…、本当になにこれ?」
「いやね、途中までゾーラさんの指示通り上手くいってたんスよ。でも、突然ミルクが……」
「ミルクが? なにしたの?」
「『ウチがゾーラのためにひと肌脱ぐ!』とか言って、勝手に勇者と神官を接客し始めたんスよ」
絶句していると、デーモンが説明してきた。
「それで、勇者と神官に樽ごと酒を飲ませた後、『特別サービスだぞ♡』とか言って、ふたりの顔を胸の谷間に押しつけたんス」
「おお……」
チラッと想像しただけで苦しかった。
「最初、勇者と神官はもがいていたんスけど、ミルクの怪力からは逃れられなかったようで、しばらくすると直撃した勇者がドロップアウト。神官は、かろうじで持ちこたえたのですが、それからは虚ろな目でずっと祈りを唱えています」
デーモンは大きなため息をつきながら続ける。
「リコッタと国王にも同じ調子で、樽で酒を飲ませたので、全員見事に酔いつぶれたっていうんスかね? とりあえず、このザマです。これ、どうしやす?」
「う、うーん。ええと……」
予想外の展開に大混乱する。
ていうか、どうしたら良いのかまったくわからない。
「ゾーラあああぁぁああ‼︎‼︎」
考えあぐねていると、我に気が付いたミルクが、猛烈な勢いで駆け寄ってきた。
「ぬおおっ!」
我の名を呼びながら抱き付いてくる。凄まじい衝撃に思わずに声を上げる。
「ゾーラ! ウチ、ウチ……、ゾーラのために頑張ったんだよおおおおお‼︎‼︎」
ミルクは顔をくしゃくしゃにして涙を浮かべた。
目の周りはマスカラで真っ黒ににじみ、つけまつ毛は取れかかっている。
「好きでもない男に胸を触らせて……、顔は笑っていたけど、心で泣いていたんだからね!」
そうほざくと、我をきつく抱きしめた。
胸と背中がくっつきそうなほどの圧迫が我を襲う。
「ぐぐぐ………」
背骨が悲鳴を上げながら反り返る。
地下水路でくらったベアハッグよりも、さらに強力だ。
「わっ、わかった。はっ、放して……」
呼吸すらままならない。胸の奥からなんとか声を絞り出す。
「何も言わなくていい! ウチが、ウチがゾーラのためにやったことだから! でも……、いまは、このままでいさせて」
我に顔を摺り寄せながら、耳元小さくで囁いた。
声と反比例するように、腕の力はいっそう強くなる。
頭に血液が回らなくなりボーっとする。
目の前が次第に暗くなってきた。
勇者、先程の貴様の気持ちがわかるぞよ……。




