#貴様、#さては
「あ~、ふわふわする。酒が回ってきた」
「僕もだよ。気を張っているからまだ大丈夫だけど、そろそろ本当に酔っぱらいそうだ」
勇者と神官の会話を小耳に挟む。
ほろ酔いで、さぞ気分もよかろう。
ひと通り、キャバ嬢たちと乾杯を交わした勇者と神官は、国王に促されてソファに腰かける。
王はグラスをゆっくりと傾けると勇者に尋ねた。
「どうだ。楽しんでいるか?」
「はい。料理も酒も堪能させていただいております。修行中である私にとって、このような宴は身に余る光栄。いまは、まだ魔王の力が及んでいませんが、今後はどうなるか分りません。そのためにも、一刻も早く勇者の盾を継承し、魔王を討伐して、ご恩をお返ししたいですね」
アーティストのインタビューのような優等生的発言。
国王の前だからって、いい子ぶっているんじゃないよ!
「ハハハ! さすが勇者。頼もしいな!」
国王が豪快に笑う。
「アルスよ。そんなかしこまらなくてもよい。余は堅苦しいのは苦手だ。それに、修行に励むのも結構だが、たまには息抜きも必要だぞ。テニース国は料理や酒も上手いが、女も美味い。今宵、堪能してみてはどうかね?」
ゆっくりとワインを口に含むと、下衆な笑いを浮かべながら舌なめずりをした。
国王の言葉の意味を理解した勇者と神官の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。
「いやっ、その僕たちは……」
目はキョロキョロ、腕や脚を組んだり戻したり。明らかに落ち着きを失っている。
(勇者め、さては童貞か……?)
どんなに冷静を装っても、不自然な動向がダダ漏れである。
インスタではあんなに調子にのっていたくせに、じつは我と同じ童貞かと思うと口元がニヤついた。
「ククク……。今回のハニートラップは、うってつけの作戦だったというわけだな」
我の背中に、追い風がビュービューと吹き始めたのを感じた。




