#勇者一行、#ご到着
「勇者一同が、テニースに到着しました!」
国王の部屋でパズルゲーム『パンぽこ』で、魔界最高得点を叩き出していると、デーモンから報告を受けた。
あまりに遅い到着のため、ちょっと面倒くさくなったが、そんなことはいってられない。
ここで、討伐が成功すれば魔王卒業。
リア充デビューは目前だ。
気持ちを切り替えて、用意していた黒服に着替える。
パリッとしたシャツを羽織ると気が引き締まった。
バルコニーに立ち、勇者が来るであろう方向を見つめる。
「勇者よ、待ちわびたぞ。今日、ここに来たことを悔やむがよい。貴様のために、死のエチュードを奏でようではないか」
気分がノッてきたので、魔笛に唇を当ててそっと吹く。
風よ、この残酷なメロディを勇者に届けよ!
カシャ! カシャ! ピピピピピピピピ!
突然、背後からスマホのシャッター音と押し殺した笑い声が聞こえる。
「ヤバイ! 何やってんの? マジ、ウケるんですけど!」
驚いて振り返るとリコッタが、腹を抱えて笑いしながら、我の写メを撮っていた。
せめて連写はやめてくれ。
「勇者御一行様、ご到着~!」
ファンファーレが鳴り、花火が打ち鳴らされる。
歓声と色とりどりの紙吹雪が、勇者一向を盛大に迎え入れると、城はお祭りムードに包まれた。
勇者と神官は、顔を見合わせて照れくさそうに、しかしどこか誇らしげに微笑んでいる。その中には、ゴールドの柔らかな髪を軽やかになびかせ、唇をはにかませた、トルテちゃんの姿もあった。
ホワイトドレスからのぞく、華奢な手足が眩しい。
久しぶりに見るトルテちゃんは、相変わらず可愛らしかった。
彼女を見た瞬間、胸が高まったが、冷静さを欠くと前回のように失敗する。
ここは慌てず、落ち着いて行動することにしよう。
相当な人員と予算がかかっているのだ。
ここまで用意して失敗などしたくない。
「よく来たな。勇者アルスとその仲間たちよ!」
謁見の間に、覇気のあるテニース国王の声が響く。
勇者たちは国王に一礼して跪いた。
リコッタに骨抜きにされても威厳は健在。腐っても国王である。
「アルスよ。主の目的は、先代の勇者が我がテニースとの友好に預けた勇者の盾を継承することだろう。しかし、慣れない砂漠を旅して、いささか疲れているはずだ。余が宴の用意をしたので、まずは英気を養ってくれたまえ。そして、勇者とテニースの友好を大いに祝おう。テニースの名物や極上の美女も主らもを待っているぞ!」
「はっ! ありがたき幸せ」
勇者一向が首を垂れる。
勇者討伐計画の幕を開けた。
全員スタンバイするがよい!




