#牢獄、#囚人、#怖〜い
「誰かいるのか? 出してくれぇ~」
「メシの時間かぁ?」
人の気配を察した囚人たちが、一斉にザワつき始める。
囚人牢は簡素な石造りで十部屋あり、すべての牢が埋まっていた。
扉には覗き穴が付いていて、こちらから覗くことはできるが、囚人側からは見えないように細工してある。
牢が満室では、大臣や勇者の盾を置くことができない。
お望み通り片っ端から鍵を開けて囚人を解放する。
「おおおおお、兄ちゃん‼︎‼︎ ありがとう‼︎‼︎」
囚人たちは突然の開放に戸惑いながらも、状況を理解し、我の手を強く握って感謝の言葉を口にした。
中には泣いている者もいる。
たまには人助けも良いものだな。
筏を往復して、九人の囚人を開放した後、手前の牢に大臣をそっと寝かせる。
その横にミルクが食糧倉庫からパクった大量のバナナや飲み物を置いておいた。
リコッタの命令で鍵をかけておいたが、この戦いが終わったらこっそり逃がす予定。
我は勇者さえ倒せればいいのだから。
「ロック!」
奥の牢に勇者の盾を置き、こちらは暗黒魔法で鍵をかける。
このくらいの超初級呪文なら我にだって唱えられるのだ。
しかし、簡単な魔法だが、解除の言葉をかけなければ、道具や魔法を使おうが永遠に開くことはできない。
「ト・ル・テ」
扉に解除の言葉をインプットさせる。
好きな女の子の名前にしちゃうところが、我の可愛いところだ。
十人目の囚人とともに対岸に戻ると、ミルクがバナナを貪っていた。
「兄ちゃん、ありがとよ。お礼にいいことを教えてやるよ。囚人牢の船着き場の下に隠しボタンがある。これを押すと、地下の水をイッキに抜くことができるのよ。まぁ、使うことはないとは思うが、一応教えておくぜ」
囚人はそう言うと、じゃあ、と軽く手を上げて足早に消えていった。
役に立たなそうだが、一応覚えておくとしよう。
「あとは筏だな……」
作戦が終わるまでは牢には誰も近づけたくない。
念のため、筏を破壊しておきたかった。
しかし、何度も言うが我は最弱魔王。攻撃魔法はもちろん、パンチやキックで破壊することなどできるはずがない。
ふと、ミルクが目に付いたので聞いてみた。
「この筏、破壊できない?」
「えぇ〜⁉︎ ウチ、か弱い女のコだよ? マジ無理なんですけど! てか、濡れるし」
ぐぬぬ。
今度は筏を背にして船着き場に立つ。
「あ、蝙蝠!」
「キャッ! こわ~い!」
蝙蝠に反応したミルクが、両手を突き出して、凄まじい勢いで走ってくる。
捕まる直前でヒラリと体をかわした。
「え? え? ぎゃああああ!」
体勢を崩したミルクは、筏に掌底をする形で溜池に突っ込んだ。
ドッシャー―――ン!
凄まじい水しぶきと木端微塵となった筏の破片が周囲に立ち上る。
「ちょっと、ゾーラ! ひどーい!」
「ごっ、ごめん」
アップアップと溜池でもがくミルクを見て、小さくガッツポーズ。
手を差し伸べたら、引きずり込まれたが、結果的に筏を破壊できたので良しとしよう。
始めてミルクが役に立った。