#モンスターが現れた
国王からテニース城の構造を聞いたところ、城の地下にはオアシスから水を引くための水路があり、奥には囚人牢があるという。
大臣はそこに閉じ込めておくことになった。
「囚人たちの逃亡防止の為、牢は対岸から筏を使わないと行くことができない」
そう国王が言ってたので、空いている牢に勇者の盾を一時保管しておくことにした。
「リコッタ、大臣に深い眠りと、重力を軽くする魔法をかけてくれないか?」
ご存じの通り、我は最弱なうえにガリ。
恰幅の良い大臣を、牢獄までおんぶして歩くことなどできやしない。できやしないよ。ククク……。
また、途中で意識を取り戻した大臣に暴れられてはひとたまりもない。
「はあー」
リコッタは深いため息をつくと、手で複雑な印を作り呪文を唱え始めた。
パープルの髪がゆっくりとなびき、大臣の体をピンク色の光が包む。
呪文を唱え終わると同時に、大臣の体から重さが抜けて羽のように軽くなった。
続けて、眠りの呪文を唱える。
詠唱しながら、指先から光の円を出すと、大臣の頭に向かって飛ばした。
円は大臣の頭を包むように広がると、吸収されるように消えた。
呼吸が深くなったので、深い眠りについたのだろう。
「こんな中学生レベルの魔法も唱えられないの? マジでヤバくない?」
「ぐぐぐぐ……」
軽くディスられたので、重力の魔法は高校レベルだと反論しようとしたが、我に魔力がないのは事実である。言葉をぐっと飲み込んだ。
この戦いが終わったら、もう少しちゃんと勉強することにしよう。
背中にはおっさん、腹には勇者の盾、左手には魔笛兼鎌という、不本意な装備で城門の下にある地下水路へと向かう。
「ゾーラ! リコッタから聞いたんだけど、地下牢に行くんでしょ? ウチ、ヒマだから一緒に行ってあげてもいいよ!」
途中、ミルクが出現した。
「てか、なんでおっさん担いでいるの? マヂウケる~!」
リコッタの命令だ。
我だって、好きでおっさんを担いでいるわけではない。
同行を何度も断ったが、あまりにもミルクがしつこいので、好きにさせておくことにした。
地獄の デートの始まりだ。




