#中年男、#ピンヒール
「ゾーラさん、コイツどうしやす?」
デーモンの腕の中で、中年男はぐったりと気絶していた。
バーコード頭がボサボサに乱れ、より悲壮感をアップさせている。
「どうするって言われても……」
仕方ないので、宴会場にあった長いテーブルクロスで、中年男をグルグルに縛ってもらった。
リコッタは青白い顔で、ベリエルに支えられながらゆっくりと立ち上がる。
「クソオヤジ。よくもこの私にナイフを振り上げてくれたわね!」
怒りに任せて、黒いエナメルのピンヒールパンプスで、中年男の腹を何度も蹴りつけた。
「ぐっぐふっ、ゲホゲホ」
中年男は、咳き込んで意識を取り戻すと、恨めしそうな顔でリコッタを睨みつけた。
「アンタ……、国王に追い出された大臣じゃない!」
その言葉に、国王をとがめていた大臣の姿を思い出した。
数日前は、あんなに張りのある表情をしていたのに、いまでは見る影もないほど憔悴しきっている。人間とは、たった1日で、こうまでも変わってしまうものか。
「貴様のせいだ! 貴様のせいで! 我がテニース国は……、国王は……狂ってしまった! 勇者の盾を返せ! このままでは、国だけでない! 世界は崩壊してしまう! この悪魔め!」
「悪魔じゃねーよ、魔族だよ! つーか、崩壊させるためにやっているんだよ!」
リコッタは憤る大臣の顔を踏みつけると、床にグリグリと擦り付けた。
グルグルに縛られた中年男とヒールで踏みつけるエロい格好の女。見ようによってはプレイである。
激昂したリコッタは大臣に宣告する。
「あんたには、死よりツライ苦しみを与えてあげる。これから、一生を牢獄で送りなさい! 愛するテニース国、いえ、世界が崩壊するのを知りながら、薄暗い牢獄で死を迎えるがいいわ!」
大臣はショックのあまり再び気を失った。
「ゾーラ。そいつ、牢獄にぶち込んでおいて」
ベリエルに支えられて、ソファに腰かけたリコッタが我に指示を出してきた。
非常に面倒くさい。むしろ嫌である。
断る言い訳を考えていたとき、リコッタがそっぽを向きながら、小さな声でボソッとつぶやいた。
「あと……、ありがとう」
ツンデレ属性か。




