#見覚えのある男、#ご乱心
城は朝から勇者討伐準備で大忙しだ。
パーティルームにブラッディのメンバーを一斉に集めて準備に勤しむ。
人間に近い外見を持つ魔族たちは、尖った耳や尻尾を髪型やメイク、ドレスで隠すなど簡単な変装で大丈夫だが、デーモンやベリエルなどの魔物は、リコッタに変身呪文をかけてもらい人間に化けてもらった。
我は勇者に顔がバレているので、当日は黒服に変装して様子を伺うことにする。
もし、バレたとしてもここでバイトしていると言えば、バカな勇者は信じるだろう。
「もう少し、暗黒魔法の勉強をしておけばよかったな……」
立て続けに呪文を唱えているリコッタを見て、自分がふがいなく感じた。
しかし、くよくよしている時間はない。ここは、気持ちを切り替えて宴会準備に取り掛かるとしよう。
「花瓶に花でも生けるか⋯⋯」
テーブルにエキゾチックなフラワーアレンジがあれば映えるはずだ。
我のセンスでおもてなしでもするとしよう。
「もうダメ。疲れた」
変身の呪文を唱えた続けたリコッタは、傍から見ても分るくらいぐったりしていた。
宴会場にあるソファで少し休んでもらうことにする。
「あの女だ⋯⋯、あの女のせいで⋯⋯」
突然、勢い良く扉が開き、どす黒い顔をした恰幅の良い中年男が、ブツブツブツブツと呟きながら入ってきた。
「あれ? アイツはたしか⋯⋯?」
どこかで見覚えがある、そう思った瞬間、
「キャーーーーーーー‼︎」
リコッタの悲鳴が宴パーティルームに響く。
目を向けると、中年男がリコッタに向かって、鋭いナイフを振り下ろそうとしていた。
普段のリコッタならなんてことない攻撃だが、体力を消耗しきっているため、なすすべもなく動けない。
「リコッタ!」
手に持っていた花瓶を無我夢中で、中年男に向かって投げつける。
ガシャーーーン!
花瓶は大きな音を立てて中年男の背中で割れた。
突然の衝撃に、中年男の動きが止まった。
「いまだ! 取り押さえろ!」
思わず大声で叫んだ。
我に返ったデーモンが、丸太のような腕で中年男をガッチリとロックすると、そのまま床にねじ伏せた。




