#魔王登場、#超カッコイイ、#死の旋律
火は徐々に勢いを増し、大きな火の輪となって村を囲んだ。
「キャー! キャー!」
「家が倒壊するぞ! 早く教会へ!」
オーディエンスの盛り上がりも最高潮。
村人たちは教会前広場に集まり熱狂している。
「ここは魔王様の出番だな」
こっそり勇者を殺るつもりだったが、予想以上に計画が上手くいき、気分がアガってきた。
ここは魔王らしく登場して、勇者や村人をビビらせてやるとしよう。
魔笛にもなる巨大な鎌を持ってきたのを思い出したので、笛を吹きながら登場することにした。
“死の旋律を奏でながら登場する魔王”。
最高にカッコイイではないか。
「ソミミ、ファレレ」
唯一吹ける、魔界小学校で習った『カッコー』を奏でながら、ゆっくりと村の中央に向かって歩き出す。
いつ写メを撮られてもいいように、キメ顔をキープしつつ、胸を張って歩いた。
人間どもよ、撮った写真はSNSにじゃんじゃんアップするがよい!
「おおお⋯⋯⋯⋯」
カッコよすぎる魔王の登場に、村人が恐れおののいている。
我の圧倒的オーラに、勇者も凍り付いているようだ。
恐怖にひきつった勇者に向かって歩き出したその瞬間、
「旅のお方!」
凛として可愛い声が響いた。
この声、聞き覚えがある。
「どうしたんですか⁉︎ 笛なんか吹いて⁉︎ ⋯⋯そっか、恐怖で気が動転しちゃったんですね」
振り返ると神殿で会った女がいた。
潤んだ瞳が我を見つめる。
女の顔と体が我に近づき、白くて細い華奢な手が、魔笛を持つ我の腕にそっと触れる。
『ドクンっ!』
全身の脈が音を立てた。
(ち、ち、ち、違うんだああああああ! コレは魔王のカッコイイ登場シーンを演出しているのであって⋯⋯⋯⋯。
てか、顔が近い! 手が我の腕に触れている! あぁ、でも女のコの手って、柔らか〜い⋯⋯⋯⋯)
再び、頭が真っ白になった。
「あっ、あのっ、はい。すごく、怖くて⋯⋯⋯⋯」
口が勝手に呟いていた。
すると、村人の輪にいた勇者が弾かれたように、
「ビッ⋯⋯⋯⋯クリしたー! だよねー! 怖かったよね。でも、もう安心して!」
馴れ馴れしくほざきながら、我に近寄り、
「みんな! 協力して! ひどく怯えた人がいる!」
村中に響く大きな声で叫びながら、立ち尽くす俺の肩を抱き、村人が集まる神殿前の広場まで、女とともに誘導した。そして、我の両肩を掴み、目をしっかりと見つめ、
「大丈夫。俺が君を守る!」
そう言い残し、大暴れしているストロガノフとザンギに向かって走り出した。
思っていた展開と違う。




