プロローグ
今まさに、俺は彼女に振られた。
彼女というのは増田 奈々子。
ひそかながら憧れていた。でも、耐えられなかった。その気持ちを押さえられなかった。
去っていく彼女の背が視界に入る。それすらも、涙で汚され届かない。
振られた。俺じゃなかった。届くはずが無かった。
……本当、後悔ばっかだな、俺。全く男らしくない。
俺は彼女に振られた。
今になって思い返せば、一体どこに惹かれたのやら。
自分でも気づかぬうちに、よろつく。
覚悟なんて、結局出来てねぇのか。
過去の自分が憎たらしい。そんな自分が恥ずかしい。
傍にあった手すりに体重を預ける。その手すりは、腰の位置に。気付かぬうちに成長していたのだろう。自分ではなく、彼女にばかり意識を向けていた事実に苦笑する。
憧れていた。
届かなかった。
この失敗は活きるのだろうか。俺に、俺なんかに活かせるのだろうか。
「そもそも、活かす機会なんか無ぇっつうの。」
小さく呟き、涙をぬぐう。
長袖の制服を整え、その場から離れ――――られなかった。
体を襲う浮遊感。備わっていない現実感。
視界を流れていく景色に、脳をフル動員させてその非常事態を理解する。
落ちている。
背中から風が迫る。耳元を空が過ぎる。死が追い駆ける。
激突が迫る。
そのタイミングで、記憶が駆け巡る。走馬灯という奴か。全てを思い出す。
両親に貰った名前は、雨宮 澪摩。
今年、ようやく高校生になった。田舎で生を受け、未だに田舎で暮らしている事。
――――だが、そんなことは今どうでもいい。
母は中一の時に他界した。今は父親と二人暮らしをしている事。
――――だが、そんなことは今どうでもいい。
友達は少なかった。そもそも田舎だから母数が少ない。
――――そんな事!今はどうでもいい!
アニメ、漫画、ラノベ。オタク文化に傾倒していた。
――――そんなの、どうでもいい!
成績はそれなりに良かった。真面目な生徒とは言えなかっただろう。
――――そんな事、思い出しても意味がない。
――――いま必要なのは生きる術。この状況から死なない方法。
きっと、彼女が好きだった。
――――そんな過去、どうでもいい。未来だってどうでもいい。
どうせ、俺は死ぬんだ。
よりにもよって、フラれて死ぬなんて。
本当に、悔いしか残らない人生だ。
それでも、体は諦めず。頭の直撃は避けようと、身を屈めて。
激突。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
瞼は重く開かない、そして徐々に痛みは引いていった。
―――――あ、俺死んだな・・・
そう思ったのもつかの間、急に瞼が軽くなった。
目を開けるとそこは知らない豪華なベッドの上だった。




