26-2(72)
土埃舞う中、僕たちは真実を確かめるべくまるでイリュージョンのごとく
消え去った場所近くに駆け寄るとそこには直径1メートル程の大きな穴が
口を開け僕たちを待ち構えていた。
唖然とお互い見つめ合う僕たちは恐る恐る穴を囲むように中を覗き込むと、
穴のはるか下に男たち2人が尻餅をついた状態で顔を歪める様子が見えた。
かなりの高さから落ちた衝撃なのか男たちはしきりに腰の辺りを何度も摩り
ながらうめき声を上げるが、それがまるでホールにいるかのように響き渡る事
に僕たちはちょっとした違和感を覚えた。
「お――い! 大丈夫か――っ!」
「大丈夫なワケないだろっ……イッ、テッテッ……」
男たちはゆっくり立ち上がり、服に付いた土埃を払い除けると急に
辺りを気にし出した。
そして彼らは突然二手に分かれ、穴から覗く僕たちの視界から一瞬消えた
かと思うと再び現れ僕たちに助けを求めた。
「お――い! 村長~ 今からこの縄を繋いで投げるからしっかり受け止め
てどっかに固定してくれ!」とせっせと2本の縄を結び始めた。
「あの~ その前にちょっとキミたち聞きたいことあんだけど」
「な、何だよ!」
「キミたちがいるそこってどこなの?」
「どこって7番駅の改札前だよ!」
「えっ? 改札前ってあの改札?」
「そ―だよ、よし! 完成だ。今から投げるぞ!」
〉〉〉響き渡る彼らの返答に僕たち全員は耳を疑った。
『ビックリね! まさかこんな所にも入り口があったなんてねっ!』と
口々にざわつき始める中、ショ―タは無言で壁面に残された数本の縄を
見つめ突然目を見開いた。
(分かったぞ! テンちゃんが見つけた凄い物ってループラインの事
だったんだ! そうだ、きっとそうに違いない! あの縄を使ってこの
穴から下に降りたんだ!)
「おぉ~い! 何してんだよ、早くしろよ!」
男たちの怒鳴り声が館内に響くと穴から全員が順次顔を覗かせ、村長
でもあるショ―タが冷静に対応した。
「その必要はないよ。キミたちそのまま帰ってくれるかな?」
「はぁ~ お前、何言ってんだ! オレ達をなめんなよ。駅ってことは
いつもの出口からだって出れるんだからな。これ以上オレ達に面倒かけると
後で痛い目に遭うぜ、いいのか!」
「えっ!」(あっ、そっか~ 確かにそうだよな)
そんな会話を黙って聞いていたリカはショ―タを押しのけるように突然穴
から顔を出し彼らに大声で言い放った。
「残念ながら駅の出入口は今朝みんなで封鎖したわよ! お気の毒さま~」
と笑顔で手を振るとまるで彼女につられるように全員穴から一気に顔を出し
声を揃えた。
『さよなら~ もう来ないでね~ バイバ~イ!』
さすがに観念したのか男たちは渋々村を去る決断を下し、再訪しないと
全員を前に約束したが、その見返りとして思いもよらぬことをショ―タに
懇願した。
「なぁ、レアストーン、ほんの少しでいいから分けてくれないか?」
「えっ、キミたちさんざん洞窟で採取したんじゃないの?」
「それがないんだよ、袋がさ。穴の周り見てくれないかな」
それを聞いたショ―タが穴の周りを見渡すと飛び出た小さな枝に男が
いう布袋が引っかかってるのを発見した。
「コレかい?」とショ―タが穴から布袋を持ち上げると男たちはまるで
子供のような表情を浮かべ何度も首を縦に振った。
すると突然「残念だったわね~」とショ―タの左脇からミカが笑顔を
覗かせた瞬間、彼は驚きの行動を取った。
「ほらよっ!」
なんとショ―タはレアストーンの入った布袋を男たちに投げつけたのだ。
「えっ! ちょ、ちょっとショ―ちゃん何してるのよ!」と焦る彼女とは
対照的に布袋を掴んだ手を何度も振る彼らは笑顔でその場を立ち去って
しまった。
「どうして奴らにあげちゃうのよ!」と憤慨する彼女にショ―タは心の内
を正直に語った。
「ついさっきまで村最大のお宝が奪われるって焦ってた僕が言うのも
なんだけどさ~ なんだか急にバカらしくなってな。なんでストーンの
ために僕達全員振り回されなきゃいけないんだよ。しかもそのせいで奴らに
村支配されそうになるなんてさ。そう思ったら無意識に奴ら目がけて袋
投げちゃってたんだ」
すると黙って聞いていたリカが呆れ顔でミカの肩を軽く叩いた。
「もういいじゃない、とりあえず村が助かったんだから。ねっ!」
「じゃ~ これからどうするのよ、ショ―ちゃん。また物々交換に戻るの?」
とミカが不満げに尋ねると彼はひと呼吸置き首を傾げた。
「そうだな、何かストーンに代わる素材考えとくよ!」「さっ、こんな
湿っぽい洞窟早く出ようぜ!」と妙に張り切るショ―タにうさぎクラブの
面々が慌てるようにを口を揃えた。
『ちょっと、ショ―ちゃんこの洞窟のお宝は?』
「あっ、アレね……、実はループラインの事だったんだ。ハハッ!」
「何によ~ ちょっと期待したじゃない!」と口々に文句を言いながらも
村が無事救済された事に安堵の表情を浮かべた彼女たちはショ―タの背中を
後ろから突っつくように来た道を引き返し始めた。
その後、洞窟から出たショ―タは全員を前に親友であるテンとの経緯を
詳細に語り、ある日突然姿を消した彼との思い出話と共に当時を懐かしんだ。
「まさかテンちゃんが7番村初のループラインの乗客だったとは驚きね!」
「でも帰って来れなかったって事は何かトラブルに巻き込まれたのかな?」
「あぁ、そうかもな」
ショ―タはゆっくりその場に腰を下ろすとコータが何やら木片のような物
を手に持ち走り寄って来た。
「ショ―タさ~ん、これ見て下さい!」
「これって側壁にあったテンちゃんの注意書きだろ。それがどうかした?」
「この字、見覚えないですか?」
コータはおもむろにポケットに手を突っ込み以前ソラから貰ったお守り
を取り出し、紐に結ばれた名前部分をショ―タに向けた。
「コ、ココ見て下さい」とコータのコとタの部分を指差した。
「うわっ、そっくりだ! えっ、ま、まさか……」と激しく動揺する彼の
後ろから同じくミカが強引にお守りを差し出した。
「見て、見て! このミカのカって字もそっくりじゃない!」と彼女の
差し出す手が震え出した。
「ホントだ、確かに似てるよな」
「間違いないわ。この死にかけのミミズのような字、絶対ソラちゃんよ!」
と確信した彼女は「やるわね~ ソラちゃん」と笑顔で木片を取り上げ
嬉しそうに文字を何度も見比べた。
そんな中、親友のソラに感謝しつつも少し複雑な心境に陥ったショ―タ
はゆっくり立ち上がるとそのまま無言で土手に向かって歩き始めた。
……土手に着くなり彼は空をぼんやり眺め、まるで独り言のように呟き
始めた。
「結局僕の力では村を救う事は出来なかったってことか……」
「あのリーダー格の男を特区に閉じ込めたのもソラちゃん。ハプニングとは
いえ残る手下の男2人を結果的に村から追い出したのもソラちゃんだもんな~」
とちょっぴり落ち込むショ―タにレイが黙って近づきそっと身を寄せた。
「テンちゃんとソラちゃん……、合わせるとどうなるか分かる?」
「えっ、どういうこと?」
「天と空、天空。つまり広い大空よ!」と彼女は果てしなく広がる雲一つ
ない青空を指差した。
「天空……、か」
「そうよ、この村はまだ何色にも染まってない真っ青な状態よ!
これからがショ―タ村長の出番じゃない。ねっ! 私で良ければいつでも
相談に乗るわよ!」
「えっ、じゃ~ レイちゃんココにいてくれるの?」
「もちろん、ショ―ちゃんさえ迷惑でなければね!」と優しく微笑む彼女に
ショ―タは照れ笑いを浮かべそっと彼女の手を取った。
〈サワサワ〉〈サワサワサワ……〉
「いい香りね」
「うん……」
川辺から聞こえる微かなせせらぎと共に爽やかな風が2人を優しく包み
込みそして通り抜けた。
その風は以前と変わることのない村特有の草花の香りを贅沢に運び込み、
それはまるでこの村の遥か未来を予想するかのように心地よく穏やかなもの
だった。
【キャスト】
元宮翔太
木浪梨花
心瞳美香
香奈枝凛
望月夕実
木平 尚
七井康太
兼谷萌恵
田処源太
段田 博
歯草 便
皿田 緑
柴田晴実
森本章彦(友情出演)
吉田ヒラ
泉美 雛
宮下 空
ジョセフ・Y・森川(方言指導)
監督・脚本 リノ バークレー
〈ガラガラガラ〉〈ガラガラガラ〉〉〉〉……
「ねぇ、あのリヤカー引っ張ってるのショ―ちゃんじゃない?」
「あっ、ホントだ!」
『ショ―ちゃ~ん!』
「おう! うさぎクラブの3人さん、揃って学校か?」
「違うの、私たちこれからピクニックなのよ!」
「えっ、ピクニックって学校はどうしたんだよ!」
「今日は創立記念日でお休みなの」
「あっ、そっか~」
「それにしても今日はやけに食材多いわね。どうしたの?」
「あぁ、ゲンタがみんなに配ってくれって分けてくれたんだ!」
「へぇ~ あのゲンタがねぇ~ ずいぶん変わったわね!」
「そうだよな。ふっ、ちょっと照れくさそうにしてたよ」
「それにしてもショ―ちゃんは全然変わんないね~ 成長して
ないっていうか……、ねっ!」
「うるさいな~ いいんだよ! オレはこれで」
『クス』『クス』『クス』……
「な、何だよ」
「オレだって。〈ボク〉はどうしたの?」
「うるさいな~ 早くピクニック行けよ!」
『ハイ』『ハイ』『じゃね~~』
「まったくよ~」
――
―――
〈ガラガラガラ〉〈ガラガラガラ〉〉〉〉
「これゲンタがキミにって!」
「いいの、もらって?」
「もちろん! あっ、でも皮は食べちゃダメだよ!」
「うん、ありがとう!」
〈終わり〉
*最後まで読んで頂きありがとうございました。