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男の腕力と迫力に圧倒され、隊長気分が一気に吹っ飛んだ僕はまるで
蛇に睨まれた蛙のように無抵抗のまま男に胸ぐらを掴まれ、そのまま
力任せにホーム一番端の椅子にほうり投げられた。
〈ドカン!!〉
「イッテ……、乱暴するなよ!」
「はぁ? オレに言ってんのか! あぁ!!」
「い、いえ、すみません」
「それにしても一向に始発が来ねえな」
次第に苛立ちを覚えるこの男に関わると再び乱暴されると感じた僕は
気配を消し、なるべく視線を合わせないでいると館内にアナウンスが流れ
始めた。
『お客様にお詫び申し上げます。不具合による列車点検の為、約1時間
遅れて運転をしております。今しばらくお待ち下さいませ』
「何だよ、ツイてねぇなオレ達。なっ!」
「う、うん」
「お前ってホント分かりやすい性格だな」
「えっ!」
「もうこの世の終わりって顔してるぜ。まぁそう落ち込むなよ、そのうち
いい事あるかもしんねぇだろ」
「……」
「無視かよ。まぁ、騙したオレの言うことなんて信用できね~よな」と
男はなんともイヤな笑顔を覗かせ、ポケットから青いカプセルを取り出し
それを水で一気に流し込んだ。
そして時間を持て余したのか男は急に立ち上がり真っ暗なトンネル内を
見ながら軽いストレッチを始めた。
その表情から彼が悪行を重ねてきた事に対する自責の念というものを
まったく滲ませない様子に強い憤りを感じるも、僕はそんな男の言葉を
疑いもせずすっかり信用してしまったのだ。
自身の甘さに強い苛立ちと情けなさを合わせ持った僕はすっかりうつ状態
に陥ってしまった。
やはり僕のような人間が村を救済するなんてハナから無理があったという
ことだろう。
自業自得とはまさにこのことだ。
ある意味前向きな男とは対照的に自虐ループの渦に飲み込まれた僕は上京
したての頃、そう、あのサラリーマン時代の宮下空に戻ってしまったようだ。
――
――――
〈ファ――ン!〉
ようやく遅れていた列車が到着し僕は再び男に腕を掴まれ強引に列車内に
押し込まれた。
駅のホームでさんざん落ち込んでいた僕だが数分後、扉が閉まり列車が
動き出すのと連動するかのように僕の気持ちにある変化が訪れた。
それは何としてでも奴を特区に閉じ込めてやるという執念のようなもの
がメラメラと炎のように立ち上って来るのを実感し始めたからだ。
そのためには特区の改札を抜け切るまで絶対に僕がソラだとばれない様
言動に気を付けるべきなのだが、サラリーマン時代に戻ってしまった今の僕
に可能だろうかと一抹の不安が頭を過る。
そんな不安だらけの僕に先ほどまで静かだった男が軽妙に話しかけて来た。
「ところで視察の旅はどうだったんだよ」
「えっ! 視察?」
「お前あれから色んな町に顔出したんだろ?」
「ま、まぁね。ハハッ!」(ヤバっ! この展開はヤバいぞ~)
「あっ、オレの町と姉妹関係にある町はどうだった?」
「え~っと、うん、いい町だったよ!」と顔を若干引きつらせる僕に男は
ゆっくり顔を近づけ不敵な笑みを浮かべた。
「お前、本当に行ったのか?」
「う、うん、もちろんさ。どうしてウソ付く必要があるんだよ」と焦り
ながらも語気を強めることでなんとか納得してもらえた。
これ以上奴と会話を続けると確実にボロが出ると踏んだ僕は男に体調が
すぐれないとウソをつき長椅子に横たわるような姿勢を取った。
だが次の瞬間隣の車両から手を何度も振り続ける若い女性の姿が!
(あっ! あの女性はモ、モエさんだ! タイミング悪っ!)
(うわっ! 近づいて来た――!)
「おい、どうしたんだよ」と僕の異変に気付いた男は僕の視線の先に目を
向けた。
「おっ! イイ女じゃね~か!」と男は彼女にこちらの車両に来るよう
手招きし始めた。
(お願い! モエさん来ないで――っ!)と決死の叫びも及ばず彼女は
連結部の扉を勢いよく開けた!
〈バ――ン!〉
「ショ―ちゃん、久しぶりね!」(えっ! ど、どうして?)
「よう、ねえちゃん、コイツの知り合いか?」
「そうよ、彼は7番村の村長さんなのよ!」
「あぁ、知ってるよ。お前結構有名人なんだな」と男は目を丸くした。
「ショ―ちゃん、これからどこ行くの?」
「えっ、あ~ 彼といっしょに特区に行こうかなって。ハハッ!」と
苦笑いすると彼女はもう一つ先の車両に背の高い男性の姿を発見した
らしく「じゃ~ 元気でね~」と僕にウインクし、満面の笑みで颯爽と
走り去ってしまった。
どうして彼女は僕の小芝居に付き合ってくれたのかは分からないが
とにかく最大の危機を回避し、彼女のおかげで僕がショ―タだと奴に印象
付けたことに安堵していると後ろから男に肩を叩かれた。
「おい! 次特区だぞ」
「えっ、もう特区なの?」
「あぁ、着いたらその足で銀行へ向かうぞ」
「いいとも」と僕はしれっと答えると列車は大きな警笛を鳴らしながら
徐々に減速し遂に特区に到着した。
僕は男に右腕をしっかりホールドされながら階段を駆け上り、自動改札
がずらりと立ち並ぶ場所までやって来たが何故か男は悩むような仕草を
見せた。
「レタスの野郎は確か同時にって言ってやがったけど一つの改札を使って
なのか隣の改札も使ってなのか迷うな。オイ! お前どう思う?」
「まぁ、同時なんだから隣の改札使うんじゃない」とあっさり答えると
男は「そうだよな」と僕を隣に押しやった。
僕たちはしっかり前を見据え、男の「1・2・3・GO!」の掛け声と共に
一気に通過した瞬間目が眩むような閃光が走った!
〈ピッカ――――――ッ!〉
『うわぁ―――っ!』




