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ループラインの軌跡 パート2  作者: リノ バークレー
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23-2(61)

 全員が見守る中、意識を取り戻したミカちゃんはゆっくり周りを見渡

すと安心したのかなんとも柔らかな表情を浮かべ彼女は再び目を閉じた。

 看護実習経験のあるナオちゃんによると過労による貧血らしく、十分な

栄養を取り安静にしていれば特に問題ないという結果に僕は心底安堵した。

 以前彼女から聞かされた重篤な病ではないかと内心疑っていた僕は過労

という言葉にとりあえず安心はしたが、やはり過労で良かったなんて軽々

しく言ってはいけないとすぐさま思い直した。

 ……僕はそっと彼女の寝顔を覗き込んだ。

 まだ幼さが残る彼女は監禁生活の中で強制労働を強いられ、僕には想像

も出来ないぐらいの重圧に日々耐え続け、今日うさぎクラブの仲間の笑顔

で遂に張り詰めていたものが一気に弾け飛び、結果意識を失う程彼女は

頑張ってきたんだから。

 そんな彼女の為にも今回村長としてこれまでの経緯を全て正直に報告し、

村の危機を全力で回避すべき立場なのに、お喋りのミカちゃんが寝てるのを

いいことに僕は例の洞窟の一件を伏せたままナオちゃんが案内役となり、

ソラちゃんと3人で問題の洞窟へ早速向うことにした。

 さすがに成熟した2人はその事について一切触れなかったが、後ろめた

さから僕は終始無言を貫き、責任が自分に降りかからない様必死に心で

願う情けない村長に成り下がりつつあった。


……

…………


(そうだ、場合によってはあの洞窟じゃないって事も有り得るよな!)と

自分にとって都合のいいシナリオを期待と共に膨らませるが、彼女がお花畑

に近づいた時点で半分程にしぼみ、川沿いを迷いなく進むにつれ更に小さく

なり、石垣の間に詰まる草むらをかき分けた時点で淡い期待は遂に手のサイズ

となってしまった。 

 ビンゴ状況となった途端、今度は奴らが偶然洞窟を見つけてしまった

可能性も捨てきれないと再び新たなシナリオを追加する僕って一体……。


〈ガサ!〉

〈ガサ!〉〈ガサ!〉


「もうすぐよ。ここからは足音に気を付けて」と彼女の手招きで馴染み深い

茂みをゆっくり抜けると右側に洞窟が、そしてその入り口付近から何やら

話し声が聞こえ始めた。

 僕たちは身を屈めながらこっそり洞窟の中を覗くと男数人が首から

白いプレートのような物をぶら下げ何やら真剣に話し合ってる様子が

垣間見えた。

 男たちの恰好や話し方からどう考えてもよその町や村からの訪問者とは

思えずしばらくの間彼らの会話に耳を傾けていると奥からドスの効いた声

と共に3人の男たちが姿を現した。


「どうだ、選別できたか?」

「あっ! リクさん、も、もうすぐです」

「チッ……、いつまでやってんだよ」

「す、すみません」「おい! 急ごうぜ!」


「あの3人組が今回の首謀者よ」とナオちゃんが小声で僕たちに耳打ち

してきた。

 目を凝らし見つめるソラちゃんが緊迫した面持ちで一言呟いた。

「ショ―ちゃん、これは思った以上に強敵かもな」

「そうだね」と答えつつもとりあえずレイちゃんがいない事にホッと肩を

なで下ろしたが、未だ彼女があの男たちに悪気なく喋ってしまった可能性 

も捨てきれずなんともモヤモヤした気分の僕にナオちゃんが再び耳打ち

してきた。

「コレってショ―ちゃんが見つけた洞窟なの?」

「う、うん」と伏し目がちに頷く僕に彼女は優しい言葉を掛けてくれた。

「きっと、アイツらがたまたま見つけちゃったのよ。ショ―ちゃんが 

心許したレイちゃんって女性は絶対ショ―ちゃんを困らせるような事

しないわよ」

「うん、そうだよね」と先ほどまでのモヤモヤ感から一気に解放された

僕はもう一度首謀者とされる男たちに目を向けた。


「アレ? あの男、どっかで見たような……」

「どうしたの? 知り合い?」とまるで打合せしたかように声を合わせる

2人に僕は3人の内リクと呼ばれていた男を凝視した。


「あ――っ! あの男!」


「ショ、ショ―ちゃん、声が大きいって!」「や、やばい! 逃げろ!!」


 僕たち3人は必死に草木をかき分け草むらから脱出すると、お互い手を

繋ぎ、川辺をひた走りお花畑方面へ向かい更に加速した。


『はぁ』『はぁ』……

『はぁ』……『はぁ』『はぁ』 

『はぁ』『はぁ』……『はぁ』……『はぁ』

               

「ちょ、ちょっと止まろうよ!」 


「と、とりあえず大丈夫そうだな、はぁ、はぁ、はぁ」


……僕たち3人はその場に吸い込まれるようにへたり込んでしまった。


「ねぇねぇ、ショ―ちゃん、あのリクって男知ってるの?」

「あぁ、前に記憶を留める薬とストーンを交換した男に間違いないよ!」

「じゃ~ アレキサンドライトと交換しちゃったの?」

「うん、……あっ! そういうことか。奴は初めからストーンに価値が

あるって事を知ってたんだ。だからわざわざこの村に仲間を連れて

ストーン採掘にやって来たってワケか」


 奴らの目的がナオちゃんの言うようにストーンだと確信した僕たちは

とりあえず今後の作戦を立てる為、一旦うさぎクラブに戻ることにした。

 上手く説明出来ないが確実に村の環境が良くない方向に変わりつつある

のを肌で感じながらもようやくうさぎクラブが見え始めた頃、入り口付近

で不審な動きをする村人らしき女性の姿が僕たちの目に留まった。


「ショ―ちゃん、あの人、何か変じゃない?」

「ホントだ、もしかして奴らの仲間かも!」と僕は一旦近づくのを止め、

しばらく観察しているとソラちゃんがナオちゃんに気づかれないよう

そっと耳元で囁いた。

「結構スタイルいい女性だね」

「ふっ、そうだね」と不審な動きに終始する彼女の顔が未だはっきりとは

確認出来ないが、ポンチョには汚れが目立ち、長い黒髪はとても手入れが

行き届いてるとは言えずどう見ても奴らの仲間やスパイとは違うようだ。


「あれ? どっかで見たような……」

「どうかした? ショ―ちゃん」

 

 僕はまるで吸い寄せられるように彼女に近づくと、僕に気付いたのか

その女性も同じように僕に向かって歩み始めた。

 そしてお互いなんとか顔を確認出来る距離に近づくと彼女から思いがけ

ない一言が発せられた。


「ごめんね、ショ―ちゃん」

「えっ、ゴメンって、もしかしてレイちゃん?」

「うん、そう。ショ―ちゃん、ごめんね、ごめんね」と彼女は目を潤ませ、

まるで崩れるようにその場に跪いた。


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