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ループラインの軌跡 パート2  作者: リノ バークレー
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20-7(54)

 モエと名乗るどう見ても80歳越えのおばあちゃんはためらわず僕の

隣にゆっくり腰掛けた。


「あの~ モエって、あのモエさん?」

「そうじゃよ、あのモエさんじゃよ」

「ホントに? だってついこの前別れた時、もっと若かったじゃん」

「そうじゃったな」

「そうじゃったなって……」(今時そんな喋り方のばあさんいないよ)

「で、何があったの?」

「ペナルティーじゃよ、ペナルティー」とため息混じりに俯いたかと

思うと急に顔を上げた彼女は記憶をだどるように僕に説明し始めた。

「実はこの前の姿はループライン廃線に伴うリファンドによる若さだった

んじゃよ」

「リファンドって?」

「つまりペナルティーで没収された月日が特別ボーナスと共に帰ってきたん

じゃよ」

「それってソラちゃんも同じような恩恵受けたって言ってたような……」

「そうじゃよ。じゃが、ばあさんな、その後のペナルティーについて

大きな勘違いをしておったのじゃ」と急に頭を抱え出した。

「その後のペナルティー?」と僕は倒れかけた杖を素早く掴み、彼女の膝に

そっと置くと彼女は少し震えるような口調で再び話始めた。

「今まで経験から初めのペナルティーは数ヶ月、2回目は数年と徐々に

経過年数が伸び、それ以降は一気に数十年と時が経過すると思っておっての

……、じゃからリファンド以降最初のペナルティーは数ヶ月だろうと勝手に

決めつけて安心しておったのじゃがどうも甘かったようじゃ」

「そ、それってもしや……」

「そうじゃ、まさかの継続中じゃったんじゃ」と再び深いため息を吐いた。

 僕は慰める言葉が見つからず途方に暮れていると彼女はそんな僕を察して

か少し柔らかい表情を浮かべ僕の膝にそっと手を添え首を数回上下させた。

「いいんじゃよ。残り少ない人生、何処で過ごそうかとこうして再び乗車

してるんじゃから大丈夫じゃよ」と笑顔を覗かせた。

 

 覚悟を決め、以前のようなポジティブ思考のモエさんに少し安心した僕は

町に求める条件について聞いてみた。 


「そうじゃな~ もう年も年じゃし、出来れば人間関係に悩まないですむ

町がいいかの」

「じゃ~ モエさんと同じような人が集まる町ってことだね!」

「そういう事になるかの~ もう刺激的な町はムリじゃよ」とすっかり枯れ

てしまった様子の彼女に僕はレタスさんのSI町を候補にどうかと勧めてみた。

「SI町ってどんな町なんじゃ?」

「とにかく色んなタイプの学者さんが多いみたいよ。でね、確かにちょっと

変わり者多いかもしんないけどみんな自分の研究に没頭してるんで案外

人間関係に悩む事は少ないと思うんだけど、どうかな?」

「せっかくじゃがパスじゃな」

「だよね、モエさんには合わないかもね。でも研究が進んで今頃若返りの薬 

開発されてるかもよ!」


「えっ!」


―あくまで仮定の話なのに彼女の表情が明らか豹変したのを僕は見逃さ 

なかった。

 

「ところでそのSIって町、暗証番号必要なのかい?」

「さ~ よく分かんないけど……、もしかして興味あるの?」

「い、いやちょっと聞いただけじゃよ」

「ふ~ん……」(ウソだね~ モエさん絶対行くつもりだ)

 

 どうも僕の直感は的中したようでモエさんは早速扉上の路線図を見上げ

何やら指で数えるような仕草の彼女に僕はあえて後ろからそっと近づき

声掛けてみた。


「モエさん、行く町決まったね!」


「ひゃ!!」

 

 本心を突かれクの字に曲がった腰が一気に伸びるほど驚いた彼女なのに

なぜか必死に否定するその顔は満面の笑みで見ているこちらが恥ずかしく

なる中、列車は特区への連結ポイントでもある15番駅に到着した。


「それじゃ~ 元気での。いい村作るんじゃよ、村長さん!」

「うん、ありがとう! モエさんも元気でね! 

「またいつか会おうの! じゃ、またね~」 

「ははっ……」

 

「じゃ、またね~」と若返る気満々の彼女とお別れした僕は暗く足場の

悪いトンネル内を慎重に通り抜け、特区へと繋がるループラインに乗り

換えしばらくの間車内で仮眠を取ることにした。


〈ピ・ピ・ピ・ピッ!〉〈ピ・ピ・ピ・ピッ!〉


 事前にセットしたアラームに特区まであと一駅という所で起こされた僕は

正面をただぼんやり見つめちょっとした不安と戦っていた。

 不安の正体はもちろんペナルティーで、僕にとっては今回2回目となる

が果たしてどの位期間が過ぎ去っているのだろうか。

 ソラちゃんの場合2年間だったがそれ以上の、いやもしかするとモエさん

のように数十年の可能性も否定できない。

 そんな不安をよそに列車は定刻どうり特区に到着し、僕は一気に階段を

駆け上がり、勢いそのまま改札を後にしショッピングセンターの扉の前で

スマホの画面を確認した。


「おっ! 半年ちょい過ぎただけか……」

「これってラッキーかも! 喜んでいいんだよね!」と館内に声を響かせた

僕は嬉しさからその足で居酒屋目指しまるで吸い寄せられるかの様に夜の街

へと消え去った。 


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