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〈ギィ――ッ〉
背中の扉が少し開くと同時に僕の身体は前方に押し出され、少し開いた
扉の隙間から謎の女性が顔を覗かせた。
「何してるのよ、そんなとこで」
「何って別に……、い、いやそんなことよりキミ誰なの?」
「誰ってミカだけど」と彼女は平然と答えた。
「えっ! キミがミカちゃんなの?」と未だ信じられない僕に彼女は
「声が大きいわよ」と僕を中に入るよう促した。
自分の部屋のはずが何故か他人の家にお邪魔してるかのような違和感を
感じるのは彼女の堂々とした振る舞いから来るのかもしれない。
「いつからココにいるの?」
「いつからって、そうね~ もう2ヶ月は経つかな?」
「え――っ! ということは2ヶ月間も僕と一緒に住んでたってこと?」
「そうよ、次の仕事決まるまでココにいてイイって言ったじゃない」
「そ、そんなこと言ったっけっ……アレ? 僕、ついさっき『ミカちゃん
救出作戦』に成功して帰って来たばっかなんだけど」
「そうなの、お疲れさん!」
「お、お疲れさんって……ん?? あ――ッ! ぺ、ペナルティーだ!
ペナルティーで時が加速的に経過したんだ!」とおでこに手の平を当てその
場にへたり込むと「ちょっと朝から大きな声出さないでって言ったでしょ」
と再び彼女にしかられてしまった。
謎が解け少し落ち着きを取り戻した僕に彼女はゆっくり顔を近づけなんとも
不満げな表情を浮かべた。
「な、何だよ」
「何か言うことないの?」
「何って?」
「鈍いわね~」と彼女は更に顔を近づけた。
「おっ、良かったな、望みが叶って」と僕なりに賞賛したつもりだが、未だ
不満そうな彼女にこれ以上顔を近づけられたくない僕は彼女が待つセリフを
口にした。
「もう美人過ぎてビックリしたよ! これでいいの?」
「うん! やっぱり何回聞いても気持ちイイものね!」
「えっ、ということはもう一人の僕も2ヶ月ほど前、同じようなこと言った
んだ。やっぱ人ってそうそう変わんないんだね」
「そうかな~ ショ―ちゃん、チョット変わったよ」
「えっ、どんな風にだよ」
「え~っ、どんな風にって言われても……上手く説明出来ないよ」
「ところでどうして仕事辞めちゃったの?」
「なんかさ~ 自社製品の苦情受付みたいな仕事でね。あんまりネチネチ
うるさいからつい『アンタの使い方が悪いんじゃないの!』って言い返したら
会社にいずらくなっちゃって……それでその後、職をテンテンって感じかな」
と意外にもスッキリしたような表情を浮かべる彼女に対し僕は真剣な眼差し
で意見した。
「だから電車内でアドバイスしたろ~ 何事も我慢が大切だって」
「我慢したよ! 色々……、でも私にとって初めてのトックのなのよ。
仕事は難しいし、人間関係もややっこしいしさ~ もう少し私に優しくして
くれてもいいじゃない!」と彼女は顔を真っ赤にし背中を向けた。
…………
「ご、ごめん、言い過ぎたよ」
「本当にそう思ってるの?」
「あぁ、僕だって初めは大変だったのにすっかり忘れちゃってて、ごめんよ」
と彼女の肩に手を触れるといきない振り向き満面の笑みで小さく手を振った。
「いってらっしゃーい! 会社遅れるわよ~」
「えっ、あぁ、行ってくるよ」と完全に調子を狂わされた僕は頭をかきながら
アパートを出た。
在来線では必死に眠気をこらえ、なんとか資料部にたどり着くもミカちゃん
救出作戦終了後の疲労感からとても仕事が出来る状態ではなかった。
「おはよう~、吉田くん」
「うわっ! どうしたんですかその顔……昨晩も接待ですか?」
「接待?」
「ここ何週間もの間、ずっと接待漬けだったじゃないですか」
「えっ! そ、そうだっけ?」
「本当の仕事は就労時間終了後の17時から始まるんでしょ。部長の口癖
じゃないですか」
「えっ、そんなこと言った?」(出来れば僕、その17時には帰りたいん
ですけど)
「えぇ、言ってますよ、最近特に」
「そっか~」と僕は資料だらけの机に向かいふと卓上カレンダーに目を
向けると部下の吉田くんが言うように予定で真っ黒になっていた。
……(まずいな、こりゃ)
「吉田くん、悪いけど奥の書庫で仮眠とってくるんで後はよろしくねっ」と
僕は奥の長椅子に腰を下ろした途端意識を失うように深い眠りについた。
――
―――
〈ピピピピッ!〉……〈ピピピピッ!〉……
突然のアラーム音に起こされ僕はしぶしぶ書庫を離れいつもの席に腰を
下ろし再び卓上カレンダーを確認するもやはり予定は真っ黒のままだった。
ふぅ~ やっぱり今この現状が僕にとっての現実なんだな。
「えっ、何か言いました?」
「あっ、いや、おはよう、吉田くん」
「お、おはようってもう夕方ですよ」
「ははっ、そうだね。もう黄昏なんだね」と最近覚えた言葉を口にし窓
もない地下の壁を見上げる僕に「部長にとっては日の出でしょ」と僕の
知らない僕の仕事スタイルなのか苦笑いの部下に返されてしまった。
僕はその後の会食の予定をカレンダーと手帳を照らし合わせしぶしぶ
資料等準備に取り掛かった。
しかし当時のソラちゃんも僕と同じような経験したんだろうな。
2ヶ月ちょっとのペナルティーでこんなに大変なのにソラちゃんなんて
2年、いや42年なんて下手すりゃ死んでるもんな、ホント勇気あるよな。
「あっ! そう、そう、レイちゃんに連絡しないと……」と電話を掛ける
も結局繋がらず、とりあえず作戦結果報告と題し成功メールを打ち込んだ。
〈ピ・ポッポッ!〉……!!
「おっ! 来た! 来た!」
「何ですか! 大きな声出して」
「あっ、いや、ごめん」
……な~んだミカちゃんか。
『今日も遅いの?』
『ごめん、いつもの接待。先に寝てて』と返信メールを打ち込んだ後、
ふと列車内で発したミカちゃんの不可思議な発言が気になりだした。
レイちゃんとミカちゃんがお世話になったユミって女性は果たして
同一人物なんだろうか?
仮にもし同一人物だとしたらレイちゃんどうして僕に黙ってたんだろ?
そんなモヤモヤを解消するためにも出来るだけ早くレイちゃんと連絡
取りたいんだけどそういう時に限ってナカナカなんだよな~ 今回の
お礼と作戦成功を共に喜びたいのにぃ~っ! も~。
「部長、何ブツブツ言ってるんですか。遅れますよ!」
「おっ! ホントだ。じゃ~ このまま直帰ってことで後よろしくね~」
と僕は鞄を抱えそそくさと部署を後にした。




