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ループラインの軌跡 パート2  作者: リノ バークレー
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14-3(36)

 その後も物凄い振動と爆音は止むことなく、私は恐怖から両耳を塞ぎ

小さな身体を更に小さく丸め嵐の過ぎ去るのをただひたすら願い続ける

しかなった。

 しばらく続いた恐怖の時間は速度を落と始めた箱に連動するかのように徐々

に和らぎ、完全停止状態の今、私はなんとも言えない静寂感に包まれていた。

 そんな中、突如上部から剣が抜かれるような音、外側の扉が開く音、そして

ついに内側扉のロックが外される音と同時に扉がスライドされ外の光が箱の

内部を照らした。

 恐る恐る上に目を向けると必死の形相のマジシャンのおじさんが無言で

私をいとも簡単にスルリと持ち上げ、抱っこされたまま地下に向かう短い

階段を下り不思議な扉前の床にそっと私を置いた。

 おじさんが扉横の小さな囲いの中で何か操作しているのをぼんやり

見ているといきなり目の前の扉が自動で開き、私は再びおじさんに抱っこ

されたまま少し長めの階段を下りるとそこには7番駅で見たあの大きく長い

電車と言われる物体が扉を開けた状態で停車していた。

 私を抱っこしたおじさんはためらうことなく乗車し、私をあのフカフカの

長椅子ではなく床に置くとおじさんも同じように床に伏せ息を一つ吐いた。

 おじさんは自身の口の前に指を立て「シィ――ッ」とだけ言葉を発し、

出来るだけ床に伏せるようなジェスチャーを見せた。

 おじさんは何度も私たちが下りた階段方向をチラッと見ては伏せる動作を

繰り返しなんとも落ち着かないが、私は今置かれてる現状をまったく理解

出来ず頬を冷たい床にくっ付け、ただひたすらおじさんを見つめていた。

 すると突然発車ベルも鳴らないまま扉が閉まり列車はゆっくり加速し

始めたのを確認したおじさんは安心したのか私を再び抱きかかえ長椅子に

横たわらせた後、真向かいの長椅子に倒れ込んだ。

 よほど大変だったのかおじさんは「はぁ…はぁ…」と急に息使いが荒く

なり、しばらく2人の間に沈黙の時間が流れた。

 

――

――― 

 

 少し落ち着いたのかおじさんが私に近づいてきたので私は警戒心から

ゆっくり身体を起こした。


「もう大丈夫だよ」

「えっ、大丈夫って?」「おじさん、もしかして私を助けてくれたの?」

「うん、うん」とおじさんは何度も何度も首を縦に振った。

「あ、ありがとう……」とお礼は言ったもののまだこの現状を受け止め

きれない私は尋ねた。 

「おじさん、私のこと知ってるの?」

「あぁ、もちろんだよ」

「じゃ、私の名前は?」

「ミカちゃんだろ」

「えっ! おじさんは…… 誰なの?」

「ほくだよ、ぼく、ショ―タ!」

「えっ! ショ―ちゃん? 絶対うそ、ショ―ちゃんはそんなんじゃ

ないわよ!」

「そ、そんなんって言うなよ、ほら特区に行ったからさ~ 変わったん

だよ姿が」

「ホ、ホントにショ―ちゃんなの?」

「そうだよ。リカちゃん、リンちゃん、みんな心配してるぞ、きっと」

「ショ―ちゃん…… そうなの?」

「あぁ、ちょっと変わりすぎちゃったけどな」


 …

 ……


「わ、わたしも変わっちゃった、へへっ!」


 極端にやせ細り、変わり果てた私の素顔を今にも泣きそうな面持ちで 

見つめたショ―ちゃんは「よく頑張ったな、辛かったろ」と震えた両手で

私の頬をそっと包み込み、気づけばお互い頬を寄せ合っていた。

「うん、うん」と頷く私の目から無数の涙がボロボロこぼれ落ち、我慢出来ず

車内全体に響き渡るほどの大声で泣いちゃった私をショ―ちゃんはしっかり

きつく抱きしめボロボロの私と一緒に泣いてくれた。

『最後の最後にこんな優しさと安堵感に包まれた瞬間が私に用意されていた

なんて、私はなんて幸せな女の子なんだろ~ ありがとう、ショ―ちゃん』

私は心の中で何度も何度も呟いた。


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