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「ふぅ~ 今日もお疲れさん!」「さっ、食べよっか、ひな」
「うん!」
夜の営業終了後、僕たちは残った食材で軽めの夕食を取っていた。
「今日は特に忙しかったわね」
「うん、ちょっと暑さもマシになったからね」「それにしても今日の
ショ―ちゃん、やけに楽しそうだったな!」
「楽しそうどころかうるさかったわよ。私、他のお客さんに謝ったん
だからね」
「そ、そうだったんだ、さすがひなだね!」
「どうも自分の企画が近々商品化されるみたいでツバいっぱい飛ばして
自慢してたわよ」
「まぁ、いいじゃない、ショ―ちゃんなりに頑張ってるんだからさ」
「なんかワインについてウンチク語ったかと思うと私にこのワイン
ないのってリスト見せられて、ウチの店にあるわけないじゃない!
ねっ、そらちゃん」と珍しく彼女が愚痴り出した。
「ハハッ! そうだったんだ。それであの時ひな、機嫌悪かったんだ」
「あと最近彼女が出来たみたいでヘラヘラしちゃってさ~ 前の
ショ―ちゃんだったら正義感いっぱいでもっと尖ってたのに今は体形と
一緒で妙にまぁ~るくなっちゃって……ショ―ちゃんじゃないみたい」
とひなは更に不満を口にした。
「まぁ、それぐらいいじゃない」と彼女をなだめると「ずいぶん
ショ―ちゃんの肩持つのね」とどうも納得いかないようなので僕は
続けた。
「考えてごらん、みんなのためだけにわざわざ危険を冒してココ特区
に一人やって来たんだよ。凄いことだと思わない?」
「うん、まぁ、そこん所はね。すごいけど……ね」
「だろ~ ここ特区の議員なんて海外視察とかの名目で税金使って
チョコチョコって視察して残りは観光やショッピングしてるって問題
になってたじゃん。それに比べてショ―ちゃんは上辺だけの視察だけ
じゃなくって実際企業で働いて人間関係も含め社会全体を自分の感性で
感じ取ろうとしているなんてホント彼、立派だよ!」
「確かにそらちゃんの言う通りかもね」と彼女の表情が変わり始めた。
「だからさ~ ちょっとぐらい浮かれてるかもしれないけど2人で
優しく見守ってあげようよ」
「うん、分かった。なんかごめんね、ソラちゃん」
「ボクもひなと同じ気持ちで嬉しいよ」と彼女にジュースを注いであげる
と少し心配な面持ちで僕に問いかけた。
「でもショ―ちゃんこの環境に飲まれて変わったりしないかな?」
「大丈夫! ショ―ちゃんはショ―ちゃんなんだから、絶対変わったり
しないよ!」
「ホント! 良かった~」と安堵した彼女のお皿の上にエビフライが1本
残されているのを僕は見逃さなかった。
「ソレいらんねやったもらいまっせ~」と僕は冗談めかしにお箸を
グィ―ンと伸ばすと「アカン!」と彼女が一言。
「ふふっ、ひな、今、関西弁やったで」
「そらちゃんもやんか!」
「ほんまや! ハハッ!」「な~ ひなも僕も昔と変わってへんやろ~
せやからショ―ちゃんも同じやって」
ひなは安心したのか満面の笑みで取られかけたエビフライにパク付いた。




