12-3(30)
目覚めると僕は広いベッドの上に横たわっていた。
あれ? ココはいったい……?
確かソラちゃん達とお酒飲んで…… ソラちゃん達が帰って……
あれ? そうそう隣の女性とまた飲んで…… そこからどうしたっけ?
ふと水が流れる音のする方に目をやると昨夜の女性が手際よく何かを
用意しているようだが、ひと段落ついたのか一瞬立ち止まったかと
思うと徐々にこちらに向かって近づいて来た。
肩近くまで伸びた長い黒髪のスレンダーなスタイルは昨夜の女性に違い
なく、焦ってもう一度布団に潜り込んだ瞬間彼女から冷静に声掛けられた。
「あれ、起きてたの?」
「お、起きたのってコ、ココはどこなの?」
「私ん家だけど、どうかした?」
「え――っ!」
「え――って覚えてないの?」
「うん、……全然」
「昨夜、大変だったんだからね~ まったく」
「ごはん食べれる?」
「うん」
僕にとって初めてのお酒、しかも記憶がなく突如目の前で繰り広げられ
てる今の状況はあまりにも刺激が強く、ぼんやり朝ごはんの支度する様子
を眺めていると彼女と目が合ってしまった。
「何してるの、もう用意出来たわよ!」
「う、うん」
「どうしたの? ……あっ、もしかしてオネショしちゃった?」
「ち、違うよ、何言ってんだよ」
僕はゆっくりベッドから起き上り、バターの香り漂うキッチンテーブル
へと向かった。
テーブルの上には斜め三角に切られたトーストとケチャップが添えられ
たスクランブルエッグ、そしてフルーツジュースが置かれていた。
朝食を目の前に昨夜の彼女との会話がまったく思い出せない僕は、絶対
話してはいけない秘密を喋ったのではないかと急に不安になり、正直食事
どころではなかった。
「どうしたの? 食べないの?」「まだ気持ち悪い?」
「あっ、いや、昨日さ、昨日、僕、どんな話してたかな~ってね、ハハッ
……、ちょっと気になっちゃって」
「色々しゃべってたわよ」
「えっ、色々って?」
「だから、色々よ」
「た、たとえばどんな~ことかな~?」
「そうね~ ショ―ちゃんの村の話とか……、あとソラちゃんの話しも
してたわよ。それがどうかした?」
「ループラインの話はしてた?」
「うん、してたわよ。なんか、あれでしょ、性格別と精神年齢の2つの
線があるんでしょ! で、ボクは7番出身だって言ってたわよ」
「そ、そうだったの…… で、ループラインの乗り場は?」
「いくら聞いても教えてくれなかったじゃない、秘密だって」
「そ、そうなの秘密なのよ、これが」「あと僕の村での仕事について
なんか言ってた?」
「ショ―ちゃん、村長なんでしょ」
「そ、それだけ?」
「えっ! 他に何かやってるの?」
「あっ、いや何にも、ボクは村長一筋だよ、ハハッ!」
(良かった~ 2つとも喋ってなかったんだ…… ふぅ~)
「もうそんなことより早く食べなさい、冷めるでしょ」
「はぁ――い!」
「何よ、急に元気になっちゃって、まるで子供ね!」「あっ、子供か」
「子供、子供って言うなよ」
「だって子供じゃな~い、ホントは」
「これでも地元の村じゃ結構頼りにされてたんだよ」と即座に反論する
僕に彼女は笑顔で「ハイ、コレ!」と小さなメモとピンクの小物入れを
テーブルの上にそっと置いた。
「何なの?」とメモに目を向けるとそこには地図が描かれ、小物入れ
からはカギが出て来た。
「何、これ?」
「最寄り駅からココまでの道順とそれはココのカギよ」
「えっ? ど、どういうこと?」
「つまり、私がいなくてもココにいつでも来てイイってことよ」
「どうして?」
「そんなこと私に言わせないの、ホント子供なんだから」
「ご、ごめん」と言いつつなぜか急に恥ずかしくなった僕は一気に朝食
をたいらげ、お礼を言って玄関に向かった。
「ホントにまた来てイイの?」
「いいわよ、いつでもどうぞ!」
「聞きにくいんだけど名前……、なんだっけ? ホントごめん、
忘れちゃったんだ」と俯きぎみに尋ねる僕に彼女は両手を腰にあて
僕の顔を覗き込むように笑顔で「レイよ、忘れないでね」と一言。
僕は全身の血が顔面に集中する寸前に「バイバイ」とだけ告げ、
一目散に玄関を飛び出した。




