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改札を抜け正面に見えるドアを開けるとそこは薄暗い倉庫のような
場所だった。
至る所に段ボールが山積みされ衣服があちらこちらに散乱している
様にいつものハズレ臭が漂い始めたが、先に見える扉を開けることに
よりそれは瞬時に打ち消された。
目の前に広がる空間は先ほどの倉庫のような場所とは真逆の白を
基調としたなんとも豪華でオシャレなものだった。
僕は興奮気味に辺りを見渡すとそこは服屋さんのようで以前
ソラちゃんが着ていたシャツのような物が不規則に並べられているが
不思議とバランスが取れているのがなんともカッコイイ。
僕は吸い寄せられるように中央に立つ等身大の人形の元に向かうと
突然後ろから小声で声を掛けられた。
「ちょっと、ちょっと…… おじさん……」
「えっ?」振り向くと瞳がキュートなショートカットが似合うリカちゃん
似の女の子だった。
「どっから来たの」
「アソコから」と扉を指差すと「違うわよ! どこの村から来たのって
聞いてんのよ」と彼女は眉をひそめた。
「7番村だけど」と素直に答えると彼女は僕の顔に急接近しピタッと
止まってひと言。
「やっぱりねっ!」
「やっぱりって?」
「実は私先週8番村行って来たばかりだったからそのポンチョ見てピ―ン
ときたわ!」
「そ、そう」
「ところでココってスーパーなの? ほらシャツいっぱいあるし……」
「違うわよ、ココはセレクトショップ」
「えっ、そうなの、僕の知り合いがシャツはスーパーの2階で買った
って言ってたけど」
「ココのシャツお高いのよ、シンプルだけど」
「そうは見えないんだけど、そうなの」
「どうもこのブランドマークが付いてるからみたいなのよ」
「変なの」
「そうね、変よねっ!」
〈ぐ~~っ〉
「どうしたの? お腹すいちゃった?」
「う、うん」
「じゃ、何か美味しいもの食べに行きましょ!」
「で、でも……」
「私が御馳走するわよ!」
「ホント!」
「ホントよ! こんな気取った店早いとこ出ちゃいましょ!」
僕たちはすぐさまお店を後にし食べ物屋を目指したが僕の本音は
少しでも長い時間彼女と話していたい気持ちでいっぱいだった。
確かに言葉は少々キツめだが時折感じる彼女から滲み出るなんと
表現していいのか分からない温かいふぁっとしたものに包み込まれる
瞬間がなんとも心地良かったからなのかもしれない。
彼女もよく分からないが僕のことを気に入ってくれたようで僕たち
はすぐさま仲良しになりお互い体験したことを話しながら目的地を
目指した。
そして町を行き交う人が増え始めた頃、彼女は少し不機嫌そうな眼差し
で僕に尋ねた。
「ショ―ちゃん、感じない?」
「感じるって何が?」
「冷たさよ、冷たさっ!」「なんかお互い牽制し合ってるっていうか
そんな感じしない?」
「そうかな~ それよりボク変な目で見られてる気がするんだけど」
「そりゃそうよ、裸にそんなポンチョ着てるからよ、フフッ!」
「そりゃそうだよね、ヘヘッ!」
その後2人は目的の食べ物屋さんに到着し料理を待ちながら再び
お互い意見交換を始めたが彼女はどうもこの町があまり好きではない
ようだ。
「実はウチの学校は小学生みたいに夏休みの宿題に自由研究があって
この町に3日ほどいるんだけどなんかみんな自分を必要以上に良く
見せる事に躍起なのよね~」
「そうなの。でもこの町はキレイし想像以上に未来的って感じでホント
ビックリしちゃったよ」
「まぁ確かに見た目はそうだけどどっかムリしてる感があるんだよね~」
「そうかな~ ボクはなんの問題もないと思うけどね」
「実際住人たちの会話を聞いたり質問したりしたけど絶対本音言わないし
かなり競争心が強くって見栄っ張りでホントビックリって感じ。そんな
だから少しでも人よりいい物や新しい物に対する欲求が凄くって次々と
新製品が開発されてるみたいね」
「ナオちゃんのVって町はどうなの?」
「私たちの町はそういう上辺的な部分には興味がないの。だから商品も
機能性重視で適正価格だし、当然他人と比べたり自慢なんかもしないんで
次々新しい物を追いかけるなんてこと誰もしないわ」
「あまりよく分からないけど商売が活発になってイイと思うけどね」
「確かにそういう部分もあるけど、程度の問題よ!」
『お待たせしました』
興奮気味のナオちゃんを落ち着かせるかのごとくウエイトレスさん
が静かに野菜サラダとフルーツサラダをそっとテーブルに置いた。
どちらのプレートも色美しいソースが何重にも重なり合うように
掛けてあり、お皿も含め見た目の大切さに感動するもナオちゃんに
とってはこれも見栄を張ってるってことになるのかな。だとしたら
けっこう面倒くさい性格かもね。
『いっただっきまーす!』
「ナオちゃん、こういったサラダも嫌いなの?」
「そんなことないわよ、シェフがお客さんに喜んでもらおうって
気持ちが伝わるモン!」
「そうだよね、ハハッ! ところでナオちゃんの町ではお肉食べるの?」
「食べないわよ、だって可哀そうじゃない」
プッ……
「ちょっと~ 何ニヤついてるのよ、気持ち悪い」
「イヤ、ボクの知り合いも同じ事言ってたの思い出しちゃって」
「ショ―ちゃんの村も食べないんでしょ」
「う、うんまぁね」(ホントは切り裂くのコワイだけなんだけどね)
「何よ、まさか食べてるの?」
「そ、そんなことよりコレ貰ってほしいんだ」と僕はポケットから
ストーンを取り出した。
「いいわよ、気にしなくって」
「ぜひ貰って欲しいんだ。実はあまり価値がないらしいんだけど……」
「このキラキラしてるのがオパールなんだけどマシなのはこれぐらいで
他の青い石や赤い石は価値ゼロなんだって」
「へぇ~ そうなんだ。じゃ、その価値のないの1つ頂くわ」
「どうして? オパールにしなよ」
「これから色んな町に視察に行くなら少しでも価値のあるのキープ
しとかなきゃ困るでしょ!」
「なんか、ゴメンね、気ぃ使わしちゃって……、あと3つぐらいどう?」
「いいわよ1つで十分よ!」
僕たちはその後も場所を変えこの町について意見を交わしたが
彼女のこの町に対する警鐘は案外的を射ているのかもしれない。
たとえ町の経済は活発であっても住人同士が本音を隠し、また見栄を
張り互いに疑心暗鬼で繋がり合わない社会に未来はないという彼女の
主張……。
「ふぅ~ なんか疲れちゃったな」
僕は一人ベンチに横たわりこの町とは無縁の無邪気で騒がしい自身
の村の風景を息抜きのように懐かしんだ。