第2話 目覚めたら(後編)
「…て……い。起…て…だ…い。起きて下さい」
『ん……』
軽く揺すられる感触と共に優しい呼び声で俺は目を覚ましていく。
その俺の目の前には海色の布に包まれた2つのたわわなメロン……そこから
視線を上げると、青いウェーブがかったロングヘアーで蒼玉の様な蒼いたれ目
気味な瞳を持った美女がいた。
「ええっと、おはようございます?」
寝起きなのか、冴えない思考で口からでた言葉を省みて、内心で滝の様に汗が
でる思いだ。だが、
「はい、おはようございます♪ 私が、貴方が転生する世界、エルドランドの
管理神をしているネプチューナですよ♪」
穏やかな笑みを浮かべて、挨拶を返してくれた目の前の女神様はやっぱり俺の
転生先の管理神様でした。
「早速ですが、貴方が転生する家と周辺環境について説明しますね」
そう言って、球状の魂の俺を優しく両手で持った状態のネプチューナ様は話し
を切り出した。
「まず、貴方が転生する国は世界の中央にある大陸の真ん中に位置する平和な
[エレファンティネ王国]です。転生先はその王国の北部辺境の開拓村、[プタハ村]
にて新たな人生を始めてもらいます。
プタハ村は周りを緑に囲まれていて、少し遠出をすると、多くの希少金属が
眠る鉱脈がありますよ。
村の人種構成は人間はもちろん、獣人、エルフにドワーフと沢山います。
主に狩猟採集で生計を立てるのが主となっています。
貴方がいた世界の日本と同じく、四季があるのですが地理的に北寄りに位置
しているので、冬は少し寒さが厳しいかもしれません。ですが、夏はそれほど
暑くはならない土地です。
このプタハ村からエレファンティネ王国の首都[クヌム]までの距離は一般的な
馬車でおよそ1ヶ月かかります。その道中は魔物も出没するので要注意です」
おお、早くもファンタジー世界でないとお眼にかかれないエルフやドワーフと
知り合えるのかと思うと、俺の期待はいやがうえにも高まっていく。
それに前世の日本と同じく、四季があるというのもありがたい。辺境の開拓
村ということは俺の転生先の家は農民なのかな?
「いいえ、貴方は開拓村をあらゆるものから護る役目を負った守護騎士の役目
を務める夫婦の長男として、転生してもらいます。その夫婦は2人とも高名な
元冒険者で、勲功で爵位としては一代限りかつ最下位の騎士爵ではありますが、
爵位を持っています。
2人の冒険者仲間も同じ村の近所の家に住んでいますよ」
ふむふむ、守護騎士ね。なかなか名前は大層な役職だけど、役割としてはどう
なんだろうか。
「その辺に関しては本人達に聞いてみるのが一番ですね。そうそう、これから
貴方が転生する家にはハーフエルフのメイドがいますよ」
ハーフエルフ!? あれしかし、なんだって元冒険者夫婦の家にメイドさんが
いるんだろう?
「それについてはご自分で転生してから確認してくださいね」
たしかに、細かいことまでなんでも聞いて答えてもらえるという考えは甘いか。
そうだ! いくつか確認しとかないといけないことがあったんだった。
「はい? なんですか?」
まず、転生後に課せられる使命を達成できない場合に科せられる罰と転生した
世界での禁止事項について教えてください。
「使命を達成できなかった場合の罰については前代未聞の出来事であるため、
審議中でまだ決まっていません……1案として、人種への輪廻の輪から永久に
外すといったものがあがっています。
エルドランドでの禁止事項ですが、特にありません。敢えて挙げるとしたら、
無益な殺生はできれば控えてほしいことですね」
使命未達成の罰は気になりますので、決まり次第教えてください。禁止事項に
ついては自分と自分の周りに影響が出ないならばこちらから手を出さないよう
にします。影響がある場合はその限りではありません。
「貴方が元いた世界の国、社会よりも命の価値が低く見られている世界なので、
私もあまり強くは言いませんが、魔法、魔術がある世界なので怨恨を利用した
魔術には注意してくださいね。他になにかありますか?」
はい、この世界の衛生面、ぶっちゃけトイレって汲み取り式ぼっとん便所です
か?
「あ……あははは……そうですよ」
ネプチューナ様は貼り付けた笑顔と乾いた笑い声とともに答えてくれた。
やはり、文化レベルが中世ヨーロッパ並みだとするならばラノベのテンプレ
展開だけれども、衛生方面はとても酷いのか。水洗トイレを使っている場所は
あるのかな?
「水洗トイレですか。あるにはありますが、王国ならば王都に住む上流階級の
一部が使っていますよ。ただし、クヌムには充分な下水設備がないので……」
ううむ、王都に行くのがいろいろな意味で怖くなってきた。もっとも、辺境で
生まれて辺境で骨を埋めることになるだろう俺には関係ないかな。
「さあ、それはどうでしょうか……答えられる範囲に限定されますが、その他
になにが聞きたいですか?」
前半が小声で聞き取れなかったけど、転生先の大陸中央にある王国の周囲の国
との関係についてお願いします。どこの国と友好関係で、敵対関係であるかを
教えてください。
下手すると、大人になったら戦争に駆りだされるかもしれないならば、早い
内に鍛錬や、やれることをやっておきたい。
「貴方が転生するプタハ村の更に北にある国境を超えた先にある[テーベ共和国]
とエレファンティネ王国は現在は休戦していますが、敵対関係にあります。
共和国は元々、王国の政争に敗れて亡命した貴族達が作った国です。
王国の北東にある[セクメト帝国]と王国は過去、何度か戦争をしていますが、
現在では恒久的な平和条約を結んで友好関係にあります。帝国と共和国は犬猿
の仲で、国境で散発的な小競り合い規模の戦闘が度々発生しています。
王国の東の海を隔てた先には島国があります。丁度、日本の室町時代の様な
和の文化を持つその国、[アスカ]と王国は友好関係にあります。
王国の西には[ムト大森林]と呼ばれている広大な森林地帯が広がっています。
そこでは人間以外のエルフや各種獣人などの種族が各々で部族や集落を作って、
西を治めている王国の貴族と友好関係を長年築いています。
王国の南は貧富の差が激しい地域で、南下した先に大きな砂漠があります。
砂漠の先にある小国[マフデト王国]と南を治めている貴族が交易をしています。
ただ、その貴族が交易の初期にマフデト王国と不平等条約を結んでいるため、
マフデト王国がエレファンティネ王国の属国じみた状態になっています。その
ため、マフデト王国側の不満が増大しています」
なるほど、北の共和国と南の貴族とその交易先の王国は要注意であると。
「ええ。どちらも、貴方が生まれてすぐにエレファンティネ王国へ攻め込んで
くるようなことはないでしょうが、気をつけておいたほうがいいと思いますよ。
テーベ共和国は王国の南地域と同等か、それ以上に格差が酷い社会になって
います。距離的に注意すべきはこちらかもしれません。
それから、要望のあった新しい魔術を創り出すスキルですが、貴方がまとも
に魔術を使える様になるまでは制約として使えないようになっています。
【魔術創造】のスキルは希少スキルなので、貴方が希望した他の固有スキル
同様、公言しないほうがいいと思いますよ。では、そろそろ転生を始めましょ
うか」
ネプチューナ様が言い終えると俺は三度、温かい光に包まれ始める。
そうだ! 最後に、ネプチューナ様を祀っている教会でお祈りすれば、また
会うことできますか?
「貴方が生まれる村には私を祀っている教会はありませんが、私を祀っている
祠でも構わないので、祈ってくだされば長時間は制約上無理ですが、お話する
ことはできるはずですよ。では、よき来世を」
俺の最後の問いかけに対して、ネプチューナ様は優しい笑顔を浮かべて答えて
くれて、その笑顔を忘れない様に心に焼き付けて、俺は三度目のまどろみへと
沈んでいった。
ご一読ありがとうございました。
ブックマーク・評価のポイントは筆者にとってハイオクなので、
いただければ執筆意欲が右肩上がりになって執筆ペースが上がりますから、
是非お願いします。