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好き

 文化祭当日は、目が痛くなるほどの晴天に恵まれた。校舎内も外も派手にペイントが施され、祭りに対する情熱が校舎中から熱気となって溢れていた。


 時刻は午前十時二十五分。太陽が燃えさかる校門前で夏美はスマホを睨みつけていた。


「駅から学校までは十五分くらいだから、そろそろ着くはず」


「憎々しいのはわかるけど、顔どうにかしろ。怖ぇぞ」


 栄介に注意されて、頬をさする。危ない。初っ端から、ここであったが百年目と喧嘩を売るわけにはいかない。納豆女から逃れるためには、そんな方法では駄目なのだ。


「あっ、夏美!」


 甘ったるい声に、夏美は嫌々ながら振り向いた。そこには案の定、彼氏と腕を組んだ沙世がいた。だが、髪型が変わっていた。よりによって、黒のストレートロングときたもんだ。夏美は思わず栄介に視線を向ける。


「なんでこっち見る。だから、ロングフェチじゃねぇよ!」


「信じるからね」


「ちょっとぉ、久しぶりに会った友達なのに冷たくしないでよ。で? そっちが夏美の彼氏なの? ふーん、まぁまぁね。あたしの彼の方が格好いいけど」


 ジロジロと全身を眺めて、沙世が栄介を評価する。その瞬間、計画していたことが全部吹っ飛んで、頭の中でゴングが鳴った。


 夏美は腰に両手を当てて胸を張ると、溜まりに溜まった憤怒を吐き出す。


「随分と失礼な態度だね。沙世、この際だからはっきり言うけど、私と貴方はいつ友達になったの? 携帯番号教えてないのに連絡してきて、図々しくも文化祭の案内しろとか何様ですか?」


「な……っ、なによ、その態度! あたしが連絡してあげたのに、そんなこと言うわけ!? あーそっか、あたしの彼の方が格好いいから悔しいんでしょ?」


「勘違いしないでくれる? あんたのピアスだらけの彼氏なんか羨ましくもなんともないよ。高校生にもなって、そんな幼稚なことしか考えられないの? わたしは人の都合を考える常識くらい身につけろって言ってるの!」


 びしぃっと彼女の顔に指先を突き付ける。唇にてかてか塗られたリップが盛大に引き攣り、目元に化粧のひび割れが見えそうだ。今まで何をされても受け流すばかりだった夏美の反撃に、衝撃を受けているよ様子だ。


「そ、そんな言い方しなくたって……っ」


「おい、沙世ちゃん泣かすとか、マジお前こそ何様だよ?」


「ただの顔見知りで、友達ですらないんだけど? 中学時代から粘着質に纏わりつかれて、教えてもない番号をどこからか手に入れて、人の予定も聞かずに自分の予定に合わせろとばかりに上から目線の電話を寄越す相手と、どうして友達になりたいと思うの? 常識のない沙世に味方するってことは、貴方も同じように常識がないってことになるけど」


「え、沙世ちゃん、この子友達だって言ってたよな……?」


「中学からの友達よ!」


 目に僅かな涙を浮かべる沙世に、栄介は気まずそうに指摘した。


「つまり、一方的に友達認識してたんじゃないか? この通り、夏美は否定してるし」


 沙世はその言葉にトドメを刺されたようによろける。初歩的な意思の疎通がようやく適ったようだ。


「そ、そんな……」


「だから、もう二度と電話──」


「待った。さっきから物凄くデジャヴを感じる。なぁ、たぶんその子、お前のことが物凄く好きなんだと思うんだが」


「え?」


「オレの弟と一緒だ。人に聞いてまでして電話してきたのは、お前に構ってほしいからじゃないのか?」


 沙世の顔が真っ赤になる。その反応に図星を悟り、夏美は閉口した。まさか、そんな馬鹿な。それ以外に言葉が浮かばない。


「沙世、私と友達になりたかった、の?」


「…………うん」


 か細い肯定に眩暈がする。上から目線の態度や中学時代からの絡みも全部、友達になりましょうよという彼女のアピールだったのか。


「それならそうと、他にやり方ってもんがあったでしょうよ」


「だって、だってあんたどんどん離れてくし、どう誘えばいいのかわからなくて」


 聞いてみればなんとも拍子抜けする理由だ。お互いに意地を張っていたために、誤解と擦れ違いが起こっていたのだ。


「今まで悩んでいたのが馬鹿みたい。沙世、これからはちゃんとこっちの予定も聞いて」


「そうしたら、誘ってもいいの……?」

 

 縋るように見つめられて、夏美は思わず笑う。


「いいよ。これからはさ、お互い素直に話そう。友達なんでしょ?」



 納豆女からどこか憎めない女の子に変わった彼女となら、いい友達になれるかもしれない。夏美の心にここのところ、蔓延っていた不満は、綺麗さっぱり消え失せていた。




 スマホが着信を知らせて点滅している。お風呂から上がった夏美は、タオルで髪を拭きながら携帯を開く。栄介からラインが来ていた。


【予想外なことが多かったけど、仲直り出来てよかったな。あの二人と行動するのも結構おもしろかった。今度は純粋に遊びに行こうぜ。文化祭二日目もよろしく】


 飾らない言葉が栄介らしい。こうしてラインを送ってくるところもマメな彼の性格がよく表れている。夏美はタオルを肩にかけながら、返信を書く。


 その時、新たなラインが表示される。今度は沙世からだった。


【今日はありがとう。とても楽しかったわ。今度また四人でWデートしましょ。空いてる日があったら教えてね】


「うわぁっ、どうしよう。尾崎のこと彼氏じゃないって言うの忘れてたよ……」 


 夏美の悩みはもう少し続きそうだ。




最後までお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。お話はこれにて完結となります。高校生の溌剌さや初々しさを、夏美達を通して伝えられていたら嬉しいです。

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