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タバコの煙のように白い息を吐き出しながら、サイラスはとある人物がやって来るのを、ただじっと待っていた。
来ることは半ば予想していた。
だから、サイラスはただ目を光らせていればいい。
ーーやはり来たな。
内心で呟く。
来て欲しかったような、そうでなかったような不思議な感覚を覚える。
が、来てしまった以上、やるべきことは一つだった。
その人物は誰かを探すように周囲に視線を巡らせながら、時折、外套の合わせ目に手を入れて何かを探っている。
サイラスは気付かれないよう忍んで、距離を縮めた。
「久しぶりだな」
声をかけた時、相手は振り返らなかった。
驚いたのか、それともどうすべきか考えているのかもしれない。
どちらにせよ、サイラスには関係なかった。
「どうしたんだよ、黙り込んで。なぁ、ライリー」
ガシリと肩を掴むと、ようやくライリーはこちらを振り向いた。
ニッコリと微笑んでいるように見えるが、目は笑っていない。
ライリーにしては珍しい、何か装ったような歪な表情だった。
サイラスはふと思った。
もしかすると、彼はずっとこうやって取り繕った生き方をしてきたのかもしれない。
そして、人はそれを偽りと呼ぶのだ、と。
「……君が何をしにここにやって来たのか、知っている。そして、今までしてきたことも。わたしが何を言っているのかわかるな」
ライリーは答えなかった。
ただ笑っているだけで、その表情に変化はない。
どうやら偽りの仮面は分厚いようだと、サイラスは心中で肩をすくめながらも、構わず続けた。
「これは預かっておくよ。必要ないだろう?」
ライリーの外套の内ポケットから小型のナイフを取り出しながら言う。
これでどうするつもりだったのか想像したくもなかった。
サイラスは離れ様、ライリーを一瞥して言った。
「今日はユリの花を持って来ていないんだな」
「……ああ」
答えが返ってくるとは思っていなかったサイラスは、思わず目を細めた。
ライリーの様子をつぶさに観察する為だ。
が、その表情には今もって変化が見られない。
何を考えているのか、サイラスには判断できないままだった。
「今日で終わらせる予定だったんだ」
ライリーはそこでようやく表情を崩した。
敢えて表現するなら、苦笑。
いや、微笑だろうか。
それが意味するところを、サイラスは考えた。
つまり、ライリーは今日この一般開放されたばかりの公園で、これ以上脅迫する必要がなくなるようなことを、リリーに対してするつもりだったのだ。
だから、ユリの花は用意しなかった。
そういうことだろうと。
「ようやく悪夢が終わると思ったのに……残念だな」
どこか他人事のように呟いて、ライリーは笑うのをやめた。
自信なさ気に腕をさすって、空を見上げている。
そうしていると、学生時代の頃のライリーを思い出した。
彼はいつも所在ない様子で、どこか別の場所に行きたがっているような、焦がれる表情で遠くを見つめていたから。
「なぜ……否定しないんだ」
自然と口をついたのは、そんなことばだった。
素直に認めることはないと、サイラスは思っていた。
自身の無実や正当性を主張するのだろうと。
それに備えて、わざわざ証拠を集めていたというのに。
あっさり引かれると拍子抜けしてしまう。
「否定したところで、言い逃れることはできないだろう?君が今日ここにいるということは、そういうことだ。昔から、君は用意周到だったから。どうせ、近くに警察もいるんじゃないの?」
そこまで考えが及んでいるとは思わなかったので、サイラスは素直に驚いた。
確かにサイラスは証拠を集め、警察にも相談し、同行してもらっている。
絶対に逃がさない為の包囲網だ。
「なぜわかるのか意外だって顔をしているね。わかるさ。君にとって、僕は別に友だちって訳じゃなかっただろうけど、僕は君のことをよく見ていたから……君は僕の憧れだった」
サイラスは何と言っていいかわからなかった。
ライリーの瞳に一筋の涙が流れたからだ。
「どうして僕の好きな人は、みんな、あの女に取られるんだろう」
ライリーは涙を拭わなかった。
ハラハラと溢れ出すままに任せる。
その横顔に、サイラスは初めて、ライリーという一人の人間と対峙していることを悟ったのだった。




