表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰ってきた夫  作者: 西子
7/126

6

翌日、リリーは見慣れぬ部屋で、見慣れぬ天井を仰ぎながら目覚めた。

住み慣れた実家の天井を眺めることはもうないのだと思うと、朝からひどく憂鬱になる。


「だめよ、頑張らなきゃ」


自身を励ますように、リリーは言った。

誰が聞いている訳でもなかったが、しっかりしなければと言い聞かせない限り、ずっと塞ぎ込んでしまいそうだった。

大きく深呼吸をして、リリーはベッドから起き上がった。

身支度をすべく、メイドを呼ぶ。


「おはようございます、奥様」


現れたのは、昨夜紹介されたメイド頭のアンだった。

彼女に頼んで、朝の支度を手伝ってもらう。

アンはこの屋敷に勤めて長いらしく、腕も確かで丁寧な仕事をするメイドのようだった。

ものの数分でリリーの身なりを完璧に整えてくれたことに、リリーは心から感謝した。


「どうもありがとう」


先ほどまで憂鬱だった気持ちが上向く。

アンにそのつもりはなかっただろうが、頑張る勇気を貰った気分だ。

後押しされる形で、リリーはさっそく階下へと降りて行ったのだが。


朝食のテーブルについた時、リリーは周囲を見渡して首をかしげた。

傍に控えるエルバートに素早く挨拶した後、さっそくその疑問を口にする。


「伯爵……いえ、サイラスはまだ寝ていらっしゃるのかしら?」


さすがに夫に対して、伯爵呼びはいかがなものかと思い、サイラスと訂正してからリリーは尋ねた。

が、エルバートは特に気にした様子を見せなかった。

昨夜と同じく、無表情のまま淡々と答える。


「旦那様は所用で、すでに出かけております」

「そう……」


リリーは、肩を落とした。

少しでもいいから、サイラスと話せないかと思っていたのだ。

朝、早く起きて活動する貴族はほとんどいない。

サイラスもその例に漏れず、昼前くらいになって起き出すものと考えていたが、あてが外れてしまった。

そもそも、エルバートは所用でと言ったが、リリーと顔を合わせないように、サイラスは早朝に出て行ってしまったのではなかろうか。

そう思うと、リリーはひどく気持ちが沈んだ。


ーーでも、まだ一日目じゃない。


まだまだ機会はあるはずだと、リリーは自分を励ました。

サイラスは社交界デビューの時、見知らぬリリーを助けてくれた。

基本的には、女性に対して親切で優しい人なのだと思う。

であれば、今はひどく怒っていても、いつかは冷静になってリリーの話を聞いてくれる可能性は十分にあった。

これからゆっくり時間をかけて和解していけばいい。

リリーは、そう考えた。


ーー大丈夫。大丈夫よ。


まるで呪文のように、リリーは心の中で呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ